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使わなきゃ損! 個人型DC iDeCo

個人型DC、中小企業こそ際立つメリット 編集委員 田村正之

2016/4/28

 大きな税制優遇で知られる個人型確定拠出年金(DC)。対象者を大幅に増やす改正法案が前国会での衆議院に続いて今国会で参議院でも可決され、来年からの施行が確実になっている。退職金・年金に関して大企業に大きく劣る中小企業の従業員にとって、個人型DCの活用は年金格差是正の非常に有力な手段だ。

■知らないともったいない

IKKIの会議室で開かれた個人型DCの勉強会では活発に質問が飛んだ

 「掛け金は毎月5000円から。掛け金の全額が、税金の計算の対象外になるので、税金が減りますよ」

 東京都千代田区のソフト開発会社、IKKI。ゲームやスマートフォンのアプリの開発を手掛けるベンチャー企業だ。会議室に集まった5人の従業員に個人型DCのメリットを語りかけるのは、りそな銀行の秋葉原支店の営業第二部長、百本陽一郎さん。

 「積立金額の変更はできるのですか」「手数料はどれくらいですか」。従業員からは盛んに質問が飛ぶ。自分の老後にかかわるだけに、声に真剣さがあふれる。百本さんはわかりやすく言葉を選びながら、一つ一つ答えていく。説明会は予定された30分を大幅に上回り、1時間を超えても続いた。

 同社は従業員が39人。天野佑三代表(38)は「自分自身も昨年にこの制度を知り、10月から掛け金をかけ始めた。税制優遇のメリットの大きさを実感し、社員にも検討してもらいたいと思った」と話す。

 強制するつもりはない。「でもせっかくのいい制度を知らないままではもったいない。最終的には個人の判断だが、知る機会を与えるまでは少なくとも会社の責任だと思う」。百本さんによる数人ずつの勉強会はすでに9回に及び、現時点で社員9人が加入を表明。さらに増えていく見通しだ。

■年金格差を埋める有力な手段

 老後を左右する退職金・年金。そこには大企業と中小企業との大きな格差がある。厚生労働省の就労条件総合調査(2013年)によると、退職金の額は1000人以上の企業が1764万円なのに対し、30~99人の企業は919万円と約半分(一時金のみ支給の会社で比較)。

 しかも状況は悪化している。一時金も年金もない比率が、30~99人の企業では5年前に比べ大きく増えているのだ(グラフ参照)。中小企業などが集まってつくっていた総合型の厚生年金基金などで解散が相次いでいることなどが背景だろう。

 広がり続ける大企業と中小企業の年金格差。それを埋めるのに本来、個人型DCは大きな役割を果たすはずだ。

 前回の記事で書いたように、拠出時と運用期間中の税制優遇では非の打ちどころがない個人型DCだが、受給時は必ずしもそうではない。

 受給時に一時金で受け取るときに負担を軽くしてくれる退職所得控除の枠は、例えば38年勤務だと2060万円と大きく、この範囲内なら税金はかからない。

 ただし個人型DCの分が独立した枠として与えられるわけではなく、会社からの退職金なども合算して計算される。大企業や公務員のように退職金の額が大きいと退職所得控除の枠をほとんど使いきってしまい、超える分については税負担が発生するケースも多そうだ。

 しかし退職金の額が小さい中小企業であれば、退職金と個人型DCの運用後の金額を合わせても退職所得控除の範囲内に丸々収まることも多いだろう。拠出時、運用時だけでなく、受給時もまったくの非課税にできる可能性が高いわけだ。中小企業こそが個人型DCの恩恵を最大限に享受できるともいえる。

 問題は、制度そのものが知られておらず、中小企業に使われていないこと。

■掛け金を拠出できる年齢の延長を

ケーティアイ建設工業の玉山代表は従業員の掛け金分、給料を上乗せし始めた

 「もっと早く知っていたら、私自身が入ったのだが」と苦笑するのは大阪市淀川区でデザイナーズマンションなどの建設を手掛けるケーティアイ建設工業の玉山勲代表(59)。従業員数は23人だ。

 取引銀行のりそな銀行からこの制度を教えてもらったのが昨秋。すぐに社員全員を集めてセミナーを開き、大きなメリットがあることを社員に伝えた。

 「これだけ大きなメリットがあるのだから、ぜひ全員を加入させたい」。そう考えた玉山社長は、年代ごとに掛け金を設定、掛け金の分はそのまま給料を上乗せすることにした。

 特にいいと思うのは個人型DCが60歳まで引き出せないことだ。「他の様々な積立制度は途中で引き出せてしまう。個人型DCであれば、きちんと社員の老後資金として残っていく」(玉山社長)

 会社員の場合、個人型DCの毎月の掛け金の上限は2万3000円。社員の中には、自分でさらに上積みして、上限まで拠出を始めるケースも出始めた。

 例えば経理部の小窪美千代さん(51)。「こんなに有利な制度だと知って、最大限に活用したいと思いました」

 ただしIKKIやケーティアイ建設工業のような会社はまだ少数だ。多くの経営者が、従業員の老後資金を心配しながらも、個人型DCの制度そのものを知らないまま時間が過ぎていく。

 制度の実施主体である国民年金基金連合会や、一部を除く多くの運営管理機関(金融機関)が、ろくに制度の周知を図ってこなかったことには大きな責任がある。

 玉山社長には個人型DCに対して要望がある。掛け金をかけられる年齢は現在59歳までだが、「もっと延ばしてほしい」ということだ。

 「私のように、制度を知るのが遅くてかけられなくなった人もいる。これから日本は高齢化が進み、働く高齢者も増える。60歳を超えても掛け金をかけられるようにするのが大事でしょう」

 実際、米国の類似の仕組みである個人退職勘定(IRA)では原則70歳まで掛け金をかけられる。日本でも検討されるべき課題だろう。

老後貧乏にならないためのお金の法則

著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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