トップスター、北翔海莉の芸達者ぶり
宝塚歌劇団星組公演「こうもり」
宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)で上演された星組「こうもり―こうもり博士の愉快な復讐(ふくしゅう)劇―」(脚本・演出・谷正純)と「THE ENTERTAINER!」(作・演出・野口幸作)はトップスターの北翔海莉(ほくしょう・かいり)が芸達者ぶりを遺憾なく発揮する。普段のミュージカルとは異なる朗々としたクラシックの歌唱を聴かせ、後半のショーでは多彩なジャンルの歌と踊りで楽しませた。
「こうもり」はもともとワルツ王ヨハン・シュトラウス2世が1874年に作曲し、ウィーンで初演されたオペレッタ。宝塚版では主人公をアイゼンシュタイン侯爵から物理学者のファルケ博士に替え、副題通りの愉快な復讐劇に仕上げた。仮装舞踏会の帰り、泥酔したファルケ博士(北翔)はこうもりの扮装(ふんそう)のまま、親友のアイゼンシュタイン侯爵(紅ゆずる)によって公園の女神像に縛り付けられ、置き去りにされる。翌朝、町中の笑いものになった博士は、侯爵の妻や侍女らを巻き込んで愉快な仕返しをたくらむ。
劇中歌は原作の「こうもり」をはじめ、ヨハン・シュトラウス2世の作品を多く引用しており、すばらしさは折り紙つき。しかし、その魅力を存分に味わえるのは歌劇団屈指といわれる北翔の歌唱力あってこそだろう。安定感のある朗々とした歌声は、入団後もクラシックの発声の基礎訓練を怠らなかったという努力のたまもの。北翔は専科に所属していた2013年に「メリー・ウィドウ」を主演し、オペレッタの楽しさに開眼したという。当時、千秋楽で「次は『こうもり』をやりたい」と話していたといい、今回の上演に「夢がかなった」と顔をほころばせる。
侯爵家の侍女アデーレを演じるのは娘役トップスターの妃海風(ひなみ・ふう)。クラシックの高音域の発声にやや苦戦したようだが、朗らかに歌い上げた。宝塚オリジナルの演出でファルケ博士との恋に落ちるシーンもあり、デュエット「君の心に翼を」では北翔と息の合った掛け合いを聴かせた。紅は冒頭の泥酔シーンや恐妻におびえる様など、コミカルな場面ではじけた演技が光った。
休憩を挟んだ第2部のショーは「究極のエンターテイナーである北翔を中心にした王道のレビュー」(野口)。田舎から出てきたタップダンス少年が、歌や踊りなどを学び、成長していくという筋立てで、ジャズあり、「シカゴ」などで知られるブロードウエーの重鎮ボブ・フォッシー風のダンスありと様々な種類のエンターテインメントをごった煮にしたよう。北翔はタップやラテンダンス、スキャット、ピアノの弾き語りまで披露。多才ぶりを見せつけた。
春の大劇場公演では恒例の新人102期生39人の初舞台。「春の空に羽ばたくひな鳥」をイメージしたというピンクの衣装に身を包み、初々しい笑顔でラインダンスを披露した。ショーの後半では北翔を中心に、黒燕尾服を着た男役、女役100人超による群舞が圧巻。ラインダンスもあり、安定感のある先輩の実力を示した。
(大阪・文化担当 小国由美子)
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