大阪市営地下鉄 「一筆書き」最長ルートに挑戦
71駅通過、4時間43分の旅
中心部が碁盤の目状になっているため、乗り換えが複雑な大阪市営地下鉄。巨大な路線網を眺めていてふと思いついた。「一筆書き」で乗り継いだらどのくらいの長さになるのか。市交通局の協力のもと一筆書きの最長ルートをはじき出し、乗車に挑戦した。
同地下鉄の場合、運賃は乗降駅の組み合わせで決まるため、初乗り運賃で一日中乗り続け、すべての路線を乗りつぶすことも可能。しかし、それではきりがないので、「同じ駅を2度通らない」というJRの片道切符の規則を当てはめてルートを選定した。市交通局の永沢良太さん(34)によると、最長ルートにするには湾岸方面と大阪府守口市方面で路線を乗り継ぎ、距離を稼ぐことがポイント。中心部の細かい乗り換えを加え、図に示した最長ルートができた。
10月上旬のある日、午後1時に江坂駅で永沢さんと合流。「駆け込み乗車はしない」など乗車マナーを確認し、なかもず駅までの370円切符を買った。
乗車約10分後、梅田駅で下車し、改札を出る。東梅田駅と西梅田駅を含めた3つの「梅田」は改札を出ても30分以内なら乗り換え可能。少し歩いて西梅田駅で四つ橋線に乗る。四ツ橋駅は改札内で心斎橋駅とつながっており、こちらは駅名が違えども改札を出ずに乗り換えできる。
「『よしのやばし』と読めます?」。幾何学的な模様を指して永沢さんが問いかけた。四ツ橋駅ホームの壁には「吉野屋橋」など駅名の由来となった4つの橋名がひらがなをデザインした独特の字体で書かれている。首をかしげて見てみたものの、「うーん。正直、読みにくい」。
続いてなんば駅、阿波座駅を経て湾岸方面へ。中央線は弁天町―大阪港駅間が高架。次に乗る南港ポートタウン線も地下は走らない。臨海部の高層ビルや倉庫街などしばし車窓を楽しみ、競艇場が見えれば住之江公園駅に到着だ。全長40メートルのエスカレーターは開業時、「東京の御茶ノ水に次いで鉄道駅2番目の長さ」だったが、新設駅などに次々と抜かれ「今、何位なのかは分からない」(永沢さん)。
再び地下に戻り大国町駅へ。御堂筋線動物園前駅のホームには、キリンやゾウの等身大のお尻の写真が並んでいた。お尻の先には天王寺動物園の最寄り改札があるという仕掛けで、BGMとして流れる童謡「アイアイ」に少し心が躍る。ここから北上し、谷町線の太子橋今市駅に向かう。学校が多い文教エリアだからか制服姿の学生が目立つと思ったら、すっかり下校時間になっていたようだ。
その後、1、2駅ごとと小刻みに乗り換えを重ね、天王寺駅に到着。御堂筋線ホームから改札に向かう階段には、1カ所だけ1938年の同駅開業時に設置されたシャンデリアが。ホコリをかぶったたたずまいだが、大正から昭和初期の「大大阪時代」の栄華を感じさせた。
同駅から4回目の御堂筋線に乗れば、今回の旅も終了。永沢さんも「いよいよ最後の乗り換えですね」と感慨深げだ。なかもず駅の改札を出た時、時計の針は午後5時43分を指していた。電車に乗るだけなのに妙に疲れたが、充実感でいっぱいだ。
スタートからゴールまで4時間43分。全9路線を利用、乗り換え回数は17回、通過駅は71駅に達し、全108駅の約3分の2を制覇できた。走行距離は78.9キロ。実際に乗車した時間は半分の2時間23分で、移動や待ち時間が2時間20分を占めた。
永沢さんは各駅で「南港ポートタウン線のフェリーターミナル駅は乗降客数が最少」「コスモスクエア駅は近畿の駅百選に選ばれた」など多くの豆知識を披露してくれた。季節感を感じてもらおうと駅員が飼育する鈴虫を置いたり、運転士になりきれる顔出しパネルを手作りしたりと、子供から高齢者まで乗客をもてなす工夫や努力も随所にあった。普段何気なく利用する市営地下鉄だが、大阪ならではの人間臭さに触れた気がした。
(大阪社会部 倉辺洋介)
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