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女子限定・萌えキャラ… イマドキの巡礼事情

2015/1/24

 霊場を巡礼する「お遍路」にちょっとした異変が起きている。女性限定のツアーはキャンセル待ちが出る人気となり、沿道にはおしゃれなカフェがオープン。美少女キャラが札所を案内する漫画も話題を集める。開創1200年を経た四国と小豆島の遍路道を歩いてみた。

 

カジュアルな服装の上に白装束をまとう。参加費は3千円だが、東京から飛行機でやってきた人も(香川県小豆島町)

■巡礼ガールがいく

 スニーカーにジーンズ、ニット帽……。カジュアルな服装の上から白装束、えんじ色の輪袈裟(わげさ)をまとった若い女性たち。昨年12月、瀬戸内海に浮かぶ小豆島で、島内の霊場を1日かけて巡る「小豆島女子へんろ」ツアーの参加者だ。

 

 「大丈夫ですか」。13番札所の栄光寺を出発した一行に急斜面が行く手を阻む。凸凹の地面、滑り落ちそうな足場に参加者たちは声を掛け励まし合う。3時間ほどで歩き、18番札所、石門洞(せきもんどう)に到着。渓谷の岩壁にお堂や不動明王像がそびえる。炎の前で経を唱える護摩炊きが行われると、辺りは厳粛な空気に。「はんにゃはらみたじ……」。中には持参した「マイ経本」を手に読経する参加者も。みな表情は真剣そのものだ。

 

1列になり、大きな石を避けながら山道を上っていく

 「お経を読むと、気分が落ち着く感じがしました」。インターネットでツアーを見つけたという京都の大学生、塩田琴未さん(19)は、お参りしていくうちに読経にも慣れたという。「今どきの格好でおしゃれに歩けるし、お寺で話を聞けるのも魅力」と参加した動機を話す。修行のような過酷なイメージもあるお遍路だが、いとこと参加した高知県の会社員、金谷知美さん(24)は「女子限定やったので気軽です」。

 

森から出て、ツアー参加者の後ろについてくる猿の群れ
参加するともらえる念珠。5回連続参加の女性が満足げに見せてくれた

 とはいえ基本の作法は怠らない。輪袈裟の扱い方や門前での合掌、一礼も丁寧に。橋に差し掛かれば、やおら手にするつえを持ち上げ始めた。橋でつえを突かないのは弘法大師由来の説話に基づく作法なのだという。

 

 険しい山を下り始めるとサルの群れに出くわした。しばらく様子をうかがっていたが、やがて「女子へんろ」の列の後ろに。「きゃあ、かわいい」。突然の「同行二人(どうぎょうににん)」に、参加者の歓声がこだました。思いがけないアクシデントもツアーの魅力のようだ。

 

■「萌えキャラ」が案内役に

実在する札所を、萌えキャラたちが訪れる漫画「おまいりんぐ」

 母親や周囲の人たちに受け入れられず心を閉ざした男子高校生が、突然現れた少女の誘いで遍路を始める。札所ごとに登場する美少女キャラや旅人たちとの出会いを通じて、主人公の心が少しずつ開いていく――。インターネットのオリジナル漫画「おまいりんぐ」のストーリーだ。四国八十八カ所霊場と美少女「萌(も)えキャラ」の組み合わせのユニークさがうけ、サイトは多い時で1日約5000人が閲覧する。

 

 「自分の居場所がないと感じている若者にこそ興味を抱いてもらえたら」。そう話すのは仕掛け人、ウェブデザイン会社の吉村拓也社長。一見、奇抜な印象だが「若い人にも記憶に残りやすいものを」という思いから、あえて「萌え系」に。徳島県板野町の板野高校では図書館に置かれるなど、地元四国の教育現場にも受け入れられ始めている。

 

■おしゃれなカフェでひと休み

(左から)ゼリーポンチの「黒鐘」、カップシフォンケーキの「淡桜」、白玉を6つの味で楽しめる「癒安」。目でも楽しめるメニューが並ぶ(松山市の「もへんろ茶屋」)

 お遍路さんも、そうでない方も気軽にどうぞ――。松山市にある四国遍路の51番札所、石手寺門前にカフェ「もへんろ茶屋」がオープンした。古めかしい寺とはギャップのある、おしゃれな雰囲気だ。店内は落ち着いた和の空間が広がる。メニューの1番人気は、生地とクリームに桜を使ったシフォンケーキの「淡桜(あわざくら)」。他にもカラフルなゼリーと炭酸水を組み合わせたゼリーポンチ「黒鐘(くろかね)」など、見た目にも楽しいオリジナルスイーツがそろう。店内には冊子になった漫画「おまいりんぐ」も置かれている。漫画のキャラ同様、スイーツのイメージは札所の由来などにちなみ、遍路経験のある客からは「こんな遍路の見方もあるんだ」と感心する声も漏れた。

四国八十八カ所霊場にちなみ、88種類を目指して徐々にメニューを増やしていく予定という

 

 店長の山口恭子さんは話題作りにと、白いスカートに、フリル付きの白装束コスプレで巡礼することも。「意外にも地元のおばちゃんや、お寺の方が受け入れてくれて。若い人も自由にお遍路ができるような雰囲気が作れればいいかな」とほほ笑む。

 

石手寺境内でお経を読む会社員の市村美佳さん(左)と川村祥子さん。休みを利用して車で霊場を回る(松山市)

 「始めるきっかけがつかめないだけなのかもしれませんね」と話すのは小豆島八十八カ所霊場第8番、常光寺副住職の大林慈空さん。「女子限定ツアー」に参加した若い女性たちのアンケートを読み、純粋に遍路をしたいという感想の多さに驚いたという。「時代とともに姿、形が変化するのは自然なこと。服装などはあまり気にしないでよいのです。お祈りするとはどういうことか、実感してもらえれば」

 

 石手寺をお参りしていた市村美佳さん(30)は「遍路の途中で食べ物をいただくお接待を受け、地元の人とのつながりを感じた」と話す。現代の若者たちをひき付ける魅力は、1200年にわたって培われてきたおおらかな包容力にあるのかもしれない。

(大阪写真部 三村幸作)

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