ケネディ米大使「女性活躍、変化は小さな行動から」
私たちの勇気と努力が将来の喜びにつながる
――女性が活躍するために政府、企業、個人が果たす役割は。
「日本には才能があって活動的な女性がたくさんいる。彼女たちは21世紀における日本の成功を約束するエネルギーや技術を持っている。すべての人に役割がある。より公正な社会を実現し、日本の女性がさらに活躍するには社会のあらゆるレベルでの関与が必要になる」
「安倍晋三首相は就任以来、世界中で女性の経済参加を増やすことの重要性を説いて回り、税制、労働市場、企業統治における重要な構造改革を提案している。9月の内閣改造で5人の女性を閣僚に任命したことは確実にこの問題への一層の決意を示している」
「経済界もまた重要な役割を担っている。女性の割合が高い会社はより収益力が高く、経営もうまくいくということは多くの研究が示す通りだ。女性がキャリアを築き、仕事と家庭のバランスをとる施策を進めることの恩恵はとてつもなく大きい」
「ますます多くの女性が起業家になっている。企業組織というのは堅苦しいこともあり、女性は自らのビジネスを始めることに熱心だが、成功するためには資金調達をしやすくする必要がある」
「個人の行動というのは大きな影響がないと思われることもあるが、公民権運動や女性解放運動のさなかに米国で育った私は多数の個人の勇気ある行動が変化をもたらすものだと教わった」
「オバマ米大統領はよく『変化はトップダウンでなく、ボトムアップから起こるものだ』と語る。最も重要なことは私たちの努力が娘たちの成功に役立つこと、そして息子たちが家庭生活でもっと喜びを知るのにも役立つことを忘れないことだ」
「女性たちは夫やパートナー、同僚やほかの家族に助けを求め、お互いに手をさしのべる必要がある。私たち女性が自らのために立ち上がる時、いつも周囲の世界を変えてきた。小さな変化を積み上げ、時代をまたぎ、世代を超え、私たちも知らないような形に人々の生活を変化させることができる」
草の根の力、政治に生かして
――政治への進出を促すには。
「政治家の家庭で育った経験から言えば、政治というものはみんなで一緒に取り組めば楽しいものだ。もし若い女性が友人や世代の違う家族とともに、自分たちが信じるもののために働くなら、彼女たちは変化をもたらす力を体験するだろうし、その活動は楽しい時間となる。貴重なリーダーシップ能力も身につけることができる」
「私はこうした事例を日本の東北地方で何度も見てきた。多くの若者が非政府組織(NGO)を立ち上げ、復興に協力していたのだ。彼女らの中から何人かが選挙に出て議会を目指す方向に変わってほしいと私は願っている。なぜなら女性はしばしば自らが選挙に出ることを恐れるからだ」
「さらに、インターネットを通じて市民が積極的な活動を行うようになったということは、ここ日本でも世界中でも言えることだ。たとえば、日本の憲法9条をノーベル平和賞候補に推そうと署名を集めた主婦たちは草の根の活動を組織する技能を持っている。日本の女性は政治に関与し、参加を増やし、協力して社会進出を進めるためにソーシャルメディアを活用する機会に恵まれている」
「民主主義においては政治参加が変化を起こすための鍵となる。私たちは米国でそうしたことを何度も目撃してきた。南北戦争と公民権運動を経てアフリカ系米国人に完全な公民権が与えられた50年後、私たちは初の黒人大統領を選出した。興味深いのは、オバマ大統領のキャリアの始まりが、シカゴの地域活動家だったことだ」
米国の経験を共有したい
――日本で自国の経験は生かせるか。
「米国では女性が投票権を得るまでに150年かかった。しかし、本当の変化が起きたのは女性が自分たちを議会に送り込むための組織を作り始めてからだ」
「女性が変化を生み出すことができることを示した最も重要な例として『エミリーのリスト』という団体の話がある。1985年、エレン・マルコムという若い女性が友人グループと自宅の地下に集まった。彼女たちは選挙に出馬した民主党の女性候補に少しだけ援助してほしいと、友人や同僚に手紙を書いたのだ」
「1年後、上院に女性議員を送り込んだ。それから7年後、4人が上院議員に、また20人が下院議員に当選した。今日、米国には女性の下院議長が生まれ、20人の女性が上院議員と、米国の歴史上最多だ」
「一方で、政府機関で働く女性の数は依然としてあまりにも少ない。米国では多くの進歩が見られるが、まだ多くの課題も残っている。女性は依然、同じ仕事で男性と比べて少ない賃金しかもらっていない。女性の役員会への参加人数も少ないし、低賃金労働において多数派を占めている。米国の経験は役に立つと信じているし、私たちが学んだ教訓も共有していきたい」
母親たちへ 自信を持とう
――日本の女性へのメッセージを。
「(母親であることについて)まだ私は勉強中だ。この気持ちはずっと消えないだろう。若い母親は家族や友人、同僚などの助けを求めるべきだ。それだけでなく夫またはパートナーと、どうやって家族を築いていくか相談することが最も大切だ」
「母親は自分がやりたいように物事をこなせていないと感じるかもしれないが、働きぶりは悪くないと納得する必要がある。自分を信じることが大事だ。父親は仕事を休んで、子育てにどれほど手がかかるかを理解してほしい」
「学生はたとえ勇気のいることであっても、新しいことを試し、周囲からできるだけ多くのことを学んでほしい。海外留学は学生ができることの中で最良のひとつだろう」
「どの国にもふさわしいやり方がある。だから、経験や知見のほかに提供できるものは私にはない。米国の経験を通して気付くべきなのは、(女性の社会進出には)時間がかかるということだ。何年もの間、努力を続けることが必要だ。得られたものを当然視してはならない。若い女性と対話することはとても魅力的だ。仕事に戻る準備をしている専業主婦とも話をしたい」
リベラル志向、父譲り 日本で足跡残せるか
ケネディ大使のこれまでの歩みにはリベラルの理念を体現した父ジョン・F・ケネディ元大統領の面影が色濃く反映されている。
政治の表舞台からは慎重に距離を置く一方、弁護士、作家、編集者として活動。美術や児童文学への造詣も深い。2002年からはニューヨーク市の公立学校を支援する基金で子どもたちの教育環境の改善支援を続けた。08年の大統領選では当時のオバマ上院議員を支持、初の黒人大統領誕生を後押しした。
"セレブ大使"として歴代の駐日米国大使を大きく上回る注目を浴びる。失言リスクを嫌ってか、多数の記者と一度に向き合う記者会見は来日以来、一度も開いていない。
日本では女性の社会進出を巡る議論は経済成長や労働力確保の視点に偏りがち。経済格差の解消や多様な選択を確保しようとの視点が抜け落ちているとの不満は当の女性たちの間でも根強い。「公民権運動や女性解放運動のさなかに米国で育った」ケネディ大使は日本で確かな足跡を残せるだろうか。
(編集委員 春原剛、佐野彰洋、鈴木淳、寺井浩介、小谷裕美)
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