外道クライマー 宮城公博著
命をかけた沢登りの冒険
人跡未踏の地図の空白部をめざす。藪(やぶ)を掻(か)き分け、岩壁の底に身を凍らせ、垂直の滝を下から攻める。虫に襲われ、水に流され溺れ、石が降ってくる。
自称、沢ヤ。牧歌の響きもなくはない「沢登り」にまさに命をかける。富山県の称名廊下、タイのジャングル、台湾の巨大渓谷をめぐる冒険記である。
透き通った功名心、生と死の境界への欲求、独善と対をなす邪気なき反骨。沢ヤの心象を描けるのは文章家の沢ヤだけだ。豪胆で細心な一線クライマーの筆致は軽妙にして深く鋭い。
4年前に御神体の那智の滝に登り逮捕された顛(てん)末(まつ)も明かされる。冒険者は人間の前に人類でありたい。でも社会は社会だ。その溝の深浅は本書のひとつの主題である。
★★★★
(スポーツライター 藤島大)
[日本経済新聞夕刊2016年4月7日付]
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。