修理成功率約90% 私は幸せの「おもちゃドクター」
珍しい壊れ方、大歓迎!
「おじちゃん、直してくれてありがとうございました」。修理したおもちゃを手渡し、子供たちからお礼を言われるのは何とも言えない喜びだ。ゴルフコンペで優勝してトロフィーを持って帰っても、家族から「邪魔」と言われる人がいると思えば、なんと恵まれた趣味だろうと思う。
私は、壊れたおもちゃを直す「おもちゃドクター」。全国約1300人のドクターと、公民館などで活動する600近い「おもちゃ病院」が登録する、日本おもちゃ病院協会の会長も務めている。協会は、今年5月に発足20周年を迎える。
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メカいじり好き高じて
おもちゃ修理は材料費のみを頂くボランティアだが、協会のドクター養成講座で講師をする際は「ボランティアではなく趣味と思ってください」と繰り返し説く。修理は楽しい趣味。お客さんはその「趣味の材料」を持ってきてくれる人。そう考えると、しっかり直して返そうという責任感も出てくる。協会登録病院の修理成功率は約90%に上る。
私がドクターを始めたのは1997年。当時は自動車メーカーでエンジニアをしていた。おもちゃ病院のパンフレットをたまたま見かけ、面白そうだと養成講座を受講した。子供の頃からメカいじりは大好きで、すっかりはまってしまった。
週末になるたび近隣のおもちゃ病院に出かけ、修理に没頭した。大変なのが、屋外のイベントに合わせて開く「出張病院」だ。テントの中で作業するが、下が地面だと、小さな部品を落としたときまず見つからない。冬の雪の日、寒すぎてハンダごてが温まらず仕事にならないこともあった。
持ち込まれるおもちゃは様々だが、そのバリエーションは過去20年近く、あまり変化していない。定番は男の子が「プラレール」、女の子が「リカちゃん人形」あたり。プラレールの最大の故障原因は、孫が電車を走らせたまま部屋を出て行くのを見て理解した。モーターの使い過ぎだ。モーター内のブラシなど部品の劣化が問題だから、それを作ればいい。
首や腕が外れたリカちゃん人形は、内部からゴムひもで外れた部分を縛ってやることで直せる。オルゴールも含め、定番のおもちゃに関しては修理方法がかなり確立されてきた。もっとも、修理方法を考えるのが醍醐味なので珍しい壊れ方をしたおもちゃは大歓迎だ。
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意外と難しい「オマケ」
特に楽しいのが、マクドナルドの「ハッピーセット」やファミリーレストランのお子様ランチのオマケのおもちゃ。外面にねじ穴がなく、分解・修理されることを想定していない構造のモノもある。「直せるものなら直してみろ」。挑戦された気がしてやる気が出る。
おもちゃを修理するボランティアグループは以前から各地にあったが、技術水準はまちまちでつながりもなかった。連携して、全体的に技術を向上させようと96年に発足したのが日本おもちゃ病院協会の前身であるおもちゃ病院連絡協議会だ。私は会社員時代に社員教育の講師をしていたこともあり、2007年から協会の役員としてドクター養成講座を担当、定年退職を機に12年、会長を仰せつかった。
会長就任後は技術向上のため工具の提供に力を入れている。最近のおもちゃは、大半が中国製。ねじなどの部品からして日本と違い、普通のホームセンターに売っている工具では対応が難しい場合もあった。
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工具もメーカーに特注
中国製でよく使われるのが、穴が三角形のねじ。かつてはマイナスドライバーをヤスリで削り、三角穴のねじに対処していた。現在は、三角ねじ用のドライバーを協会として工具メーカーに特注し、ドクターに提供している。また、ねじを入れるおもちゃの穴が小さく一般的なドライバーが入らないこともあり、軸径の細いプラスドライバーも特注品を用意した。
ただ、最近出て来たスマートフォンで操作するようなハイテクなモノは手に負えない。中には集積回路(IC)を手作りして直してしまうすご腕ドクターもいるが。
今後の目標は、まずおもちゃドクターの認知度の向上。より多くの子供たちに多彩な「趣味の材料」を持ってきてほしい。
当然ドクターも増やしたい。有資格者は私のような技術畑出身者ばかりではない。学校の先生など文系の人も大勢いる。面白そうと感じる人は、それだけで資質がある。気軽にご連絡ください。
(三浦康夫・日本おもちゃ病院協会会長)
[日本経済新聞朝刊2016年3月8日付]
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