突然現れて驚く円形脱毛症 免疫異常が原因
再発も 早めの治療、効果高く
奈良県に住む30代女性のA子さんは頭部に5つの円形脱毛がある。出産後、抜け毛が多くなった。はじめは様子をみていたが、脱毛がどんどん広がっていった。皮膚科に通院し薬物治療を受けているが、このまま全部が抜けてしまうかも、と不安な日を過ごす。
日本人は平均で10万本ほどの髪の毛が生えている。毛は一定の期間がたつと自然に抜け落ちて、そこからまた新しい毛が生えてくる。約3~6年の周期でこれを繰り返している。健康な人でも毎日50~60本ほどの毛が抜けているという。
病原体などから身を守る免疫が自分自身を攻撃してしまう円形脱毛症では、免疫細胞のTリンパ球が頭皮の下にある毛根を異物と見なして攻撃する。この結果、毛根の周りで炎症が起きて毛が抜ける。新しい毛も眠ったような状態になり生えてこない。1000人に1~2人の割合で発症すると考えられており、多くの場合、髪の毛が突然抜ける。今のところ予防法もない。
円形脱毛症のタイプは脱毛が1カ所の単発型から全身の毛が抜ける汎発型まで多様だ。「大抵は単発型で、数カ月様子を見ていたら治ったという例も多い」と横浜労災病院の斉藤典充皮膚科部長は話す。ただ、回復しても半年以内に再び脱毛が起きる人も多いという。
この病気は発症しやすい体質があり、それにストレスなどが加わって起こると考えられている。「アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患のある人、他の自己免疫疾患にかかっている人がなりやすい」(斉藤部長)。円形脱毛症に関連する遺伝子もいくつか報告されているが、親子で必ず発症するわけではない。
引き金になるのはストレスのほかにインフルエンザなどのウイルス感染による高熱、疲労など。ただ、とくに思い当たる出来事もなく発症する人もおり、仕組みはよくわかっていない。
頭髪の病気は目に付きやすい。発症した子供などが「見た目を気にしてひきこもりになる例もある」と浜松医科大学の伊藤泰介・病院准教授は話す。かつらを使う場合も負担がかかる。
円形脱毛症が自然に治らない場合、医療機関を受診するのが得策だ。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、頭皮の脱毛範囲が25%未満を軽症、それ以上を重症と分け、症状の進行具合も考慮している。それぞれに合った治療法を選ぶ。
通常はまず抗アレルギー薬を服用したり、免疫細胞の働きを抑えるステロイド薬を塗ったりする。Tリンパ球による攻撃を食い止めるためだ。軽症の場合、ステロイドを毛が抜けた部分に注射する方法もある。毛穴に薬が直接入るため高い効果が期待できる。月に1回程度実施すると、7~8割の人で毛が生えてくる。
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16歳以上の重症患者で病気が進んでいる場合、大量のステロイドを3日間点滴する方法もある。発症後、早い段階で実施すると効果があるという。「免疫力が下がるため入院の必要があるが、短期間の投与なので重い副作用の心配もない」と伊藤病院准教授は話す。
患部に人工的にかぶれを起こす方法もある。薬で頭皮を刺激して別のTリンパ球を呼び寄せ、免疫のバランスを整える。米国で40年以上の実績があり重い副作用の報告もないという。「かゆくなるが、非常に有効な方法だ」(伊藤病院准教授)
このほか、患部に紫外線を当て自己免疫反応を抑える方法もある。治療法は患者によって異なるが、いずれもすぐには毛が生えてこない。3週間から人によっては半年かかる例もある。
患者は日常生活でどんなことに気を付けたらよいのか。専門家はバランスのよい食事、規則正しい生活を心がけることが大切だと訴える。自分なりにストレスとうまく付き合う方法を考えることも大切だ。洗髪を控える人もいるが「シャンプーの頻度で脱毛の量は変わらない」(斉藤部長)。
髪の毛の悩みがストレスとなり、病状が悪化するのはよくない。放置せず、早めに皮膚科などを受診するようにしたい。
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男性型はホルモンが関与 丁寧シャンプーで予防を
年齢とともに頭頂部などが薄くなる男性型脱毛症は男性ホルモンが関係しており円形脱毛症とはメカニズムが異なる。飲み薬や塗り薬もあるが「日ごろのシャンプーで、ある程度防ぐことができる」と毛髪ケアに詳しい理容師・美容師の板羽忠徳氏は話す。
男性型脱毛は薄くなったからといって、まったく毛がなくなるのではなく、産毛のような新しい毛が生えている。洗髪時はまず、湯をかけて汚れを落とす。五百円玉くらいの量のシャンプーを泡立てて、1回目は汚れや皮脂を洗い流し、2回目は半分の量のシャンプーで5分ほどマッサージをしながら洗うとよいという。
頭皮に直接シャンプーをつけたり、皮脂を取ろうとごしごし洗ったり、爪をたてたりするのはよくない。そして、しっかりとすすぐ。これは男性だけでなく、女性にも共通する。
拭く際は頭からタオルをかぶり、軽くたたいたり、もんだりして水分を取る。育毛剤を使用する際はドライヤーで乾かす前に塗るとよい。蒸したタオルで血液の流れをよくすることも有効だという。
肩や首が凝っていると、頭皮の血の流れが悪くなる。運動やマッサージをしたり、首筋に蒸したタオルを巻いたりするのがお勧めだ。「1日1回リラックスする時間を持つ」(板羽氏)ように心がけたい。
(藤井寛子)
[日本経済新聞朝刊2016年2月28日付]
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