茨城・土浦カレー、海軍×ツェッペリン
地元食材のうまみ舞う
茨城県南部に位置する土浦市。国内第2の広さの湖「霞ケ浦」に面し、日本3大花火大会の一つとされる「土浦全国花火競技大会」で知られる。そんな土浦で近年、カレーをテーマにした街おこしが進んでいる。そこには地域の魅力を見つめ直し、街を活性化したいとの思いが託されている。
市や土浦商工会議所は2004年から、全国のご当地カレーと地元店が集う「土浦カレーフェスティバル」を開催。07年から投票でカレーナンバー1を決める「C-1グランプリ」も催している。フェスティバルは2日間の期間中、8万人が訪れる一大イベントに成長した。
「主菜部門」で度々グランプリを獲得しているのが「幻の飯村牛とレンコンのビーフシチューカレー」。1938(昭和13)年開業の老舗「レストラン中台」が提供している。JR土浦駅から歩いて7、8分の場所にある店を訪ねた。
「幻の飯村牛カレー」はキーマカレーをビーフシチューと煮込み、生産量日本一を誇るレンコンやパプリカなど色とりどりの地元産野菜の素揚げをトッピングしている。A5ランクの黒毛和牛のバラと肩を使用。数センチ角の肉がぜいたくに入っているのには驚く。
飯村牛は市内で徹底した健康管理のもと育てられているブランド牛。地元でも年20頭ほどしか流通していない。オーナーシェフの中台義浩さん(51)は「地元にはいい素材があるのに評価が低かった。多くの人に地域の魅力を知ってもらえるチャンス」と意気込む。
土浦城跡近くの「中華の福来軒」は数多くのカレー関連メニューをそろえる店だ。「ツェッペリンカレーコロッケ」が10年に「創作部門」のグランプリを獲得した。ジャガイモをたっぷり使ったキーマカレーに、細かく刻んだレンコンがちりばめられており、食感が楽しい。「ペースト状にしたフルーツを入れるなど工夫して食べやすくした」と社長の藤沢一志さん(61)。コロッケをのせたカレーライスや、レンコンの中華揚げをのせたカレーラーメンも人気を集めている。
市街地からは少し離れているが、14年に「麺部門」グランプリとなった火門拉麺(かもんらーめん)の「カレーヌードル」もユニークな一品。もともとゴマをふんだんに使った担々麺が人気の店。それをベースにしており、濃厚なゴマの風味とカリッと揚げたレンコンチップのトッピングがカレーと意外に合う。
ほかにもアンコウの空揚げをのせた喜作の「あんこうカレー」や11年の「創作部門」グランプリ、創作和菓子すぎやまの「蓮根(れんこん)カレーパイ」などユニークな品が多い。
土浦がカレーで街おこしに取り組むようになったのは十数年前から。「飛行船『ツェッペリン伯号』が寄航した際、カレーを振る舞った逸話にヒントを得た」。疑問に答えてくれたのは土浦商工会議所の中小企業相談所長、稲葉豊実さん(57)だ。ツェッペリン伯号は全長236.6メートルというドイツの巨大飛行船。1929(昭和4)年に世界一周を達成。その際、当時の霞ケ浦飛行場に寄航した。この時のカレーを商議所の女性会が2005年、現代風に再現。それを参考にレトルトカレーを商品化し、商議所が販売している。
もう一つのわけは「金曜日にカレーを食していた海軍の伝統にあやかった」(稲葉さん)。土浦周辺には戦時中、関連の部隊・施設が集積し、「予科練(海軍飛行予科練習生)」の教育も行われていた。連合艦隊司令長官を務めた山本五十六も霞ケ浦航空隊副長だった時、市内の寺に下宿していたと伝わっている。
商議所が事務局になって「つちうら咖●(くちへんに厘)(カリー)物語」事業者部会を組織し、地元素材を使ったカレーメニューを提供する店舗を認定する制度にも取り組んでいる。現在、認定店は市内に約30。事業者部会長を務めている福来軒の藤沢さんは「店が点在しているのが課題。食べ歩きをより楽しんでもらえるよう、カレーの街の雰囲気づくりに努めたい」と話す。土浦駅周辺は商業施設の撤退が相次いだ。にぎわいの復活につながるのか、挑戦は続く。
かつて水戸に次ぐ常陸国第2の都市として栄えた土浦。江戸期には老中を輩出した譜代・土屋氏が長く治めた城下町で、水戸街道と霞ケ浦の水運の結節点という交通の要衝として発展した。明治初期には新治県の県庁が置かれている。
土浦城は二重の堀に守られる平城で、水に浮かぶ亀の甲羅のような姿から亀城(きじょう)とも呼ばれた。城跡は公園になっている。近くの旧水戸街道沿いには江戸後期から明治期の商家の蔵が現存しており、歴史を感じながら散策できる。
(日経グローカル副編集長 川上寿敏)
[日本経済新聞夕刊2016年2月16日付]
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