の・ようなもののようなもの
35年の歳月のリアル
遠写しのベンチでカップルがいちゃつく。空気の読めない男がのっそりやってきて、狭い隙間に座る……。冒頭から森田芳光監督「の・ようなもの」(1981年)そっくりのショットだ。
駆け出しの落語家、志ん田(でん)(松山ケンイチ)はニヤついて夕美(北川景子)からの誕生祝いの封筒を開く。中はビール券。落胆する志ん田。隣のカップルは消え、怪しい中年男がアイスキャンデーをなめている。
この栃木なまりの男が何者なのか志ん田はまだ知らない。でも前作を見た人なら志ん魚(とと)(伊藤克信)だと気づく。35年が過ぎたとあって、白髪まじりで無精ひげ、でっぷり太っている。
志ん魚は師匠の死後、姿を消した。一門を継いだ兄弟子の志ん米(尾藤イサオ)は師匠の十三回忌公演を準備中だ。後援会長はお気に入りだった志ん魚を見たいという。志ん米は志ん田に志ん魚を探せと命じる。
鉄道を乗り継いで探し回った末、近所の墓地で見つけた志ん魚は、便利屋としてのんきに暮らしていた。もう落語はしないという志ん魚の説得のため、志ん田はアパートに転がり込む。
志ん田は気ままに生きる兄弟子に、生真面目な自分に足りないものを見つける。逆に志ん魚は不器用だがまっすぐな弟弟子に、昔の自分の影を見る。2人は新作の稽古を始める……。
のれん、そば、電車などがクリシェ(常とう句)のように再三現れ、人物の性格を示し、笑わせる。松山、北川、野村宏伸、三田佳子ら俳優陣はみな森田映画の出演者で、これも喜劇的なクリシェとして機能する。
尾藤、でんでん、伊藤の兄弟弟子トリオは前作と同じ。歳月がそのまま体に刻まれていてリアルだ。かつて遅れてきた新人監督・森田の真情を見事に表現した伊藤は、その後もおもねらず楽観的に生き抜いた森田の心根を体現する。監督は森田組助監督だった杉山泰一。1時間35分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2016年1月15日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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