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「茶の湯」息づく堺の和菓子 利休が愛した味守る

2016/1/13 日本経済新聞 夕刊

 茶道千家の流祖とされる千利休が活躍した堺――。16世紀以降、有力商人をはじめとする町衆の間では、茶の湯をたしなむ喫茶文化が広がった。茶請けに供する菓子作りも盛んとなり、今も堺の旧市街では和菓子の老舗が腕を競う。

 1329年創業の「かん袋」は一口サイズの餅をうぐいす色の餡(あん)でくるんだ「くるみ餅」が売り物だ。時折、勘違いされるが、クルミが入っているわけではない。もっちりとした餅とコクのある甘さの餡が巧みに調和する。餡の原料を知りたくなるが、豆の種類など製法は一子相伝で門外不出だそうだ。

1329年創業のかん袋のくるみ餅はコクのある甘さの餡が人気だ

 「もともとは和泉屋という商号のお餅屋だったようです」。27代当主の今泉文雄社長(64)が店の歴史をひもといてくれた。

 1593年、大坂城を築いていた豊臣秀吉は多額の寄付金の返礼として堺の商人を招いた。その席上、和泉屋徳左衛門が餅作りで鍛えた腕力を生かし、天守閣にふく瓦を次々と屋根の上に放り上げてみせた。まるで風にあおられて宙を舞う紙袋(かんぶくろ)のようだった。感銘を受けた秀吉が「以後、かん袋と名付けよ」と命じ、店名の由来になったという。

 夏になると、上からかき氷をかけた「氷くるみ餅」が一番人気だ。店外まで長蛇の列になることも多い。そんな日は閉店時間の午後5時を待たずに売り切れとなり、店じまいする。

 利休も愛したとされる味を落とさないよう、「その日に自分の店で売る分だけを作る」のが今泉さんのこだわり。大手百貨店などから出店の誘いを受けるが、首を縦に振ることはない。「手を広げすぎると目が行き届かなくなる」との思いからだ。

 堺の旧市街を南北に貫くメーンストリート、大道筋(紀州街道)に店を構えるのが「小島屋」。看板商品「けし餅」を目当てに来るファンが引きも切らない。北海道十勝産の小豆をじっくり炊き込んだこし餡を餅皮で包み、煎ったケシの実がたっぷりまぶしてある。

 ほおばるとケシの実の香ばしさや、プチプチとはじける独特の食感がたまらない。

 17代当主の桑原武夫社長(53)は「大事なのは昔と変わらぬ味を追求することです」と明かす。顧客から「数十年ぶりに食べたら、子供のころの堺の風景が脳裏によみがえった」といった礼状が届くのが何よりの証しだ。

 340年前の創業当時、ケシの実はインドからの舶来品として珍重された。現在は、値は張るが品質の良いトルコ産を使っている。

北海道十勝産の小豆を炊き込んで餡をつくる小島屋のけし餅

 店内には戦災をくぐり抜けた宮内庁からの感謝状がずらりと掲げられる。近くには千利休の屋敷跡などの観光スポットがあり、桑原さんは「お土産に買って帰る観光客も多い」と話す。

 大道筋に沿って北に10分ほど歩くと「茶寮」が見えてくる。創業1850年のつぼ市製茶本舗が手掛ける日本茶カフェだ。抹茶を飲みながら、こし餡の入った利休餅や抹茶アイスなど3種類の菓子を楽しめる「抹茶三昧セット」がお薦め。いずれも甘すぎない味付けで、たくさん食べても飽きがこない。お茶の老舗が運営するだけに、抹茶や煎茶の味は折り紙付きだ。

 古い日本家屋を改装した建物もおいしさを引き立てる。もとは約300年前に建てられた仕出し料理店。谷本順一社長(57)は「老朽化のため取り壊される寸前に巡り合った」と振り返る。カフェとしてリノベーションできるかが分からないまま買い取り、無理なら更地にして転売する覚悟だったという。

茶寮の抹茶三昧セットは利休餅や抹茶アイスなど3種類を楽しめる

 あえて地元出身のデザイナーに内装を頼み、「利休のわびの世界を今風に表現した」と谷本さん。店の雰囲気がマッチして初めて、メニューも完成するというわけだ。

 市民に「チン電」の愛称で親しまれる阪堺電気軌道の停留所が目の前。日本一の高層ビル、あべのハルカスから情緒たっぷりの路面電車に揺られて30分ほどとあって、タイムスリップしに来る家族連れも目立つ。和菓子を堪能した後は、大山古墳(仁徳天皇陵古墳)など壮大な歴史遺産巡りも楽しめる。

<マメ知識>三千家の茶室、一堂に
 茶道には多くの流派があるが、千利休を祖とする「表千家」「裏千家」「武者小路千家」の三千家がよく知られる。堺市中心部に昨年春オープンした文化施設「さかい利晶の杜(もり)」は、三千家の命名による3つの茶室「西江(せいこう)軒」「風露(ふうろ)軒」「得知(とくち)軒」を備える。三千家の茶室が一堂に会するのは、全国でもここだけだ。
 堺を訪れたら茶室でお点前を体験してみてはどうだろう。予約が要る(大人500円)が気軽に茶の湯の作法を教えてもらえる。

(堺支局長 小島基秀)

[日本経済新聞夕刊2016年1月12日付]

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