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「認知症カフェ」全国に600カ所、関心あれば誰でも 悩みや不安を相談、専門家アドバイス

2015/12/4 日本経済新聞 夕刊

 認知症のお年寄りや家族などが集う「認知症カフェ」が全国で広がっている。お茶を飲みながら困りごとなどを語り合い、専門家のアドバイスも受けられる。運営側は認知症について正しく理解してもらおうと、当事者以外の人にも「来店」を呼びかける。カフェはどういう仕組みなのか。各地の施設を訪ねた。

 「母はここに来ると笑顔が絶えない。私もひととき介護を忘れられる」。11月下旬、認知症カフェ「Dカフェ・リハビリ工房」(東京・目黒)を訪れていた50歳代の女性は話した。80歳代後半の母は車椅子に頼る生活で要介護度は最も重い5。認知症でコミュニケーションはとれない。昨年、女性は介護で疲弊していたときにカフェのことを知り、母と一緒に通い始めた。

 Dは認知症を指す英語「Dementia」の頭文字。女性の何気ない話にも男性スタッフは共感し、女性が何でも話せるようにする。一方で母親は作業療法士の介助で木づちを使ってコースター作りに夢中だ。リハビリ工房という名前は、ものづくり体験ができるという意味を込める。症状の進行を抑えるとされるプログラムだ。

■一人で悩まずに

 同カフェを運営するNPO法人Dカフェnet代表理事の竹内弘道さん(71)は「一人で悩まず気軽に立ち寄って話し合ってもらう場所で、医師など医療関係者もふらっと訪れるのが認知症カフェ」と話す。認知症とひとくちに言っても、アルツハイマー型、レビー小体型など様々な種類がある。カフェでの医師とのやりとりがきっかけで病気の型が分かり、有効な治療に結びついた例もある。

 竹内さんは自宅や区の施設を利用し、目黒区内にカフェを8カ所営む。営業は毎日ではなく、週1回から月1回程度で、1回あたり2時間ほど。「一人300円払ってもらえれば、だれでも利用可能」という。地域に大きく窓を開いているのが特徴だ。

 認知症関連の集まりには、家族会や介護者の会などが以前からあった。カフェは集まる人を限定しないのが特徴で、認知症の人自身にも「来店」を促す。国も認知症対策として、自治体に設置を促しており、全国に多めに見積もって600カ所ほどあるといわれる。オランダと英国の取り組みがモデルとなっており、運営主体も様々だ。

■働く場の試みも

 認知症の人を特別視せず、希望すればボランティアとしてスタッフの側に回ってもらう試みもある。公益社団法人認知症の人と家族の会栃木県支部(宇都宮市)が、同市内で運営するカフェ「オレンジサロン石蔵」はその一つ。ここでは65歳未満で発症した若年性認知症の人たちが働く。

 訪れた11月半ば、57歳の女性がランチの料理を皿に盛り付けていた。「体が動く限りは、何でもしたい」と話す。カフェの責任者の金沢林子さんは、「他の若年性の人も配膳や接客をする。だれかに必要とされていると感じてもらい、生きがい創出につなげる」と話す。若年性の人たちが働くありのままの姿をみんなに見てもらい、病気への理解を深めるのが狙いだ。

 カフェは広がりつつあるとはいえ、歴史は浅く一般にはまだあまり知られていない。「オレンジカフェ えんむすび」(東京・江東)は全国でも珍しい常設のカフェで、情報発信にも熱心だ。入り口に高齢者が懐かしいと感じるようなお地蔵さんを置いたり、足湯コーナーを設けたりして、関心を引こうとつとめる。近隣地区で新聞の折り込み広告を出したこともある。

 介護会社のすこやか(同)が運営し、介護福祉士も立ち寄る。地域には独居のお年寄りが多い。認知症の相談だけでなく「介護全般のよろず相談所を目指している」と話す。

 家族の介護に悩む人、認知症に漠然と不安を感じている人、どんなことでも認知症に関心のある人ならカフェ利用が可能。最寄りの自治体の介護担当者や地域包括支援センターに問い合わせれば、どんなカフェがどこにあるかを知ることができる。

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■正しい理解へ セミナー続々

 認知症への理解を促すセミナーも増えている。介護大手のベネッセスタイルケア(東京・新宿)は、認知症など高齢者が気をつけた方がいい病気の早期予防を目的に、全国で定期的に無料の「地域医療セミナー」を開く。医師を講師に招き、正しい理解を広める。

 11月下旬は都内で「認知症の正しい理解と予防」を開催。慶大病院の三村将副病院長が、会場に集まった90人の受講者に外に出て歩くことを勧め、「前向きに生きよう」と呼びかけた。介護関連各社も同様のセミナーを手がける。

 厚生労働省研究班は、認知症高齢者は2012年時点で462万人と推計。発症に影響する糖尿病がこのまま増加すれば、25年には730万人に増えると予測する。高齢者の5人に1人にあたる。ベネッセスタイルケアは「認知症は人ごとではない。セミナーで予防の大切さを訴えたい」と話す。

(保田井建)

[日本経済新聞夕刊2015年12月3日付]

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