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平安貴族料理 和食のルーツ 栄華の味 みやびに浸る

2015/11/18 日本経済新聞 夕刊

 11月24日は和食の日。2013年12月に和食がユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されたことにちなんで制定した。和食は日本の伝統文化であり、代表格は京都の1200年の歴史を受け継いできた京料理だ。京都市内に無数にある京料理の店のうち、平安時代の料理を再現して提供する粋な有名店が2店ある。食欲の秋に定番の京都観光とは一味違う、和食のルーツを訪ねる旅はいかがだろう。

萬亀楼の平安貴族料理の主要な品々。挿し花と特注の台が優雅だ

 そもそも京料理とは何か。明確な定義はないが、次のような特色が挙げられる。野菜や魚介類、豆腐、漬物など旬な素材の組み合わせ。軟水や薄口しょうゆで作った柔らかい薄味。繊細な包丁使いや美しい盛り付け。みやびな器――。ルーツは平安時代にたどることができる。

 京都・西陣の名水の地に300年近く店を構え続ける老舗料亭、萬亀楼(まんかめろう)がある。平安時代の宮中料理を現代の風味にアレンジして提供している。タイやアユ、エビ、アワビ、ウニの魚介類や、大根やカブ、水菜の京野菜。これらの素材を盛った11品の料理を1品ずつ出す。

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 平安貴族も現代の日本人と同様に、美味なアワビやウニが好物であったらしい。珍味のカラスミ(ボラなど魚の卵巣の塩漬け)やコノワタ(ナマコの腸の塩辛)は平安時代に宮中に献納され、保存食や酒のつまみとして珍重されていた。

 「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」と栄華を極めた藤原道長。当時の複数の文献によると、道長はこの歌を詠んだ50歳代に実は糖尿病の症状に苦しんでいた。美食と運動不足がたたったのだろうか。

刀のような包丁と箸で魚をめでたい形に切る平安時代からの儀式(京都市の萬亀楼)

 萬亀楼の料理は高級な膳を季節の挿し花で飾り、見た目も色鮮やかで優雅だ。「お客様には日常の時を忘れ、みやびな気分に浸ってもらいたい」と主人の小西将清さんは話す。平安貴族料理は1人3万円(税・サービス料別)。客層は関東から訪れる観光客が多いが、外国人も目立つ。

 予約をすれば別料金で、小西主人が道長の時代から1000年続く古式ゆかしい食の儀式を披露する。平安貴族の装束をまとい、魚に手を一切触れずに、刀のような包丁と鉄の箸で切り分けていく。小西主人は生間(いかま)流式包丁の30代目の家元でもある。

 平安貴族料理を提供するもう1軒の店は、平安神宮近くの琵琶湖疏水沿いにある。1899年(明治32年)創業の京料理の六盛(ろくせい)だ。堀場弘之会長は「東京国立博物館にある平安時代の文献を参考にし、貴族料理を忠実に再現してみた」と語る。1116年に内大臣の藤原忠通が自邸で公卿をもてなした宴会料理の10品である。

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六盛の1品目。高盛りの白米の周りにアワビなどが並ぶ

 1品目の高く盛った白米が慶事を表す。白米の周りに、焼いたキジ肉やタコ、蒸したアワビなど8つの総菜を入れた金箔の器が並ぶ。数をそろえたごちそうであり、後の「おかず」の語源になった。平安貴族は塩、酢、酒、ひしお(しょうゆの元)の4種の調味料を足して食べた。「当時の料理をそのまま再現すると、干したものが多くて硬いし、塩漬けにしていて辛いので現代人の口に合わないと分かった」(堀場会長)

 このため顧客に出す平安貴族料理は、現代の出汁(だし)や調理法で今風の味に創作した。イノシシ肉はしぐれ煮の味付けをした。ちなみに京料理に欠かせないカツオと昆布の出汁が広まったのは江戸時代だった。六盛の平安貴族料理は1人1万2千円(税・サービス料別)。客層は源氏物語ファンの女性仲間や、特別な接待の席に利用する法人が多い。

 最後に、十数万人が住んでいた平安京の大多数を占める庶民の食事に触れておく。京都国立博物館所蔵の平安末期の絵巻物には、ご飯と汁物、質素な干物のおかずの器を地面に並べた「一汁三菜」が描かれている。貴族は白米を食べていたが、庶民は麦やアワ、キビの雑穀が主食だった。

 平安時代は飢饉(ききん)や疫病に幾度も見舞われ、都は荒廃した。庶民は料理を楽しむよりも飢えをしのぐことで精いっぱいだっただろう。飽食時代の今、そうした先人の苦労に思いをはせたい。受け継がれた食文化の遺産に感謝の気持ちを込めて。

<マメ知識>新嘗祭と同じ日にならず
 「和食の日は本当は、収穫を感謝する新嘗祭(にいなめさい)が行われる11月23日にしたかった」と和食文化国民会議の熊倉功夫会長は話す。勤労感謝の日と重なるため、日本記念日協会は翌24日を認定した。11月24日は「いい日本食」と語呂が良くて覚えやすく、ケガの功名だった。
 熊倉さんは「カレーやお好み焼きも和食ですかとよく聞かれる」と苦笑する。「和食の解釈で結構です」と熊倉さんは答えているが、伝統的な家庭料理のご飯、味噌汁、おかずの一汁三菜が和食の基本という。

(京都支局長 岩田敏則)

[日本経済新聞夕刊2015年11月17日付]

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