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病気・医療

専門医、遠隔で診療支援 地方や夜間休日に対応 患部の写真・症状やりとり

2015/11/11 日本経済新聞 朝刊

 自分の専門でない病気だったり、まだ経験が浅かったりして医師が十分に治療できないケースは少なくない。そんな問題を解決すべく、情報通信技術(ICT)を活用して患者の症状や治療法を共有し、その場にいない医師から助言を得て遠隔診療に取り組む医療機関が増えている。診療科ごとに専門医をそろえられない地域、人手が手薄になる夜間・休日……。こうした環境下でも診療の質を高めようと、模索が続く。

 「患者さんに、皮膚の問題で他の医療機関を受診しに行ってもらうことがなくなった」。新上三川病院(栃木県上三川町)の看護師、稲川珠美さんは喜ぶ。

 骨折や脳卒中後のリハビリ専用病床が約170と、北関東地域有数の規模である同病院。高齢で長期入院の患者が多く、床ずれや湿疹など皮膚を巡る問題が起きやすい。ただ皮膚科医を雇うほどの余裕はなく、対症療法でやわらげるのが基本。月1、2件はある症状が重いケースでは、入院中でも家族に頼んで大学病院や皮膚科の診療所に連れて行ってもらっていた。

 別の場所で皮膚科を受診すれば、それだけリハビリが遅れる。そこで今年3月、タブレット端末「iPad」をナースステーションに2台配備し、診療補助アプリ「ヒフミル君」を使い始めた。

■12時間以内に返信

 ヒフミル君は医療支援ソフト会社「エクスメディオ」(高知県香南市)が開発。スマートフォン(スマホ)やタブレットを使って患部の写真や患者が訴える症状を送信すると、登録している10人の皮膚科の専門医のいずれかから、12時間以内に「どんな病気が考えられ、どう治療すべきか」が返信されてくる仕組みだ。

 皮膚の病気の約7割は専門外の医師が診察するとされる。「必ずしも適切な医療を提供できていない」。精神科医で、こう感じていた同社の物部真一郎社長が開発を思い立った。医師数千人が利用登録している。

 新上三川病院では主治医の指示で看護師が画像や症状の送信を担い、返信内容を共有する。麻酔科医の宮本竜之・院長補佐は「治療法が正しくとも、症状が改善しないと不安になるもの。専門医への相談で治療を継続すべきかどうかなどを判断できる」と話す。

 スマホなどの普及により、医師らは医療機関にいなくても患者情報を把握し、共有を図ることができるようになった。こうしたツールを使えば、数多くの専門医らから幅広く助言を得ることも可能だ。手薄な領域で「経験知」を生かそうという試みが広がる。

 香川県は2013年、テレビ会議システムと電子カルテ機能を統合したシステム「ドクターコム」を導入。スマホを通じたテレビ会議で島などへき地の訪問看護師や医師と、都市部の専門医がつながり、共有したカルテ情報などを基に、症状や治療法を相談する。

■導入費用が課題に

 参加している綾川町国民健康保険陶病院(香川県綾川町)の大原昌樹院長は「地域では訪問看護師に頼らざるを得ないことも多いが、医師が適切に指示できるようになった」と話す。

東京慈恵会医科大では医師が脳のCT画像などをスマホ上でやりとりし、議論する

 取り組みは地方に限らない。東京慈恵会医科大の脳神経外科は昨年、脳のコンピューター断層撮影装置(CT)画像やメッセージをスマホで簡単にやり取りできる仕組みを取り入れた。

 「救急で運ばれてきました。画像を送ります」「すぐに手術をしてください。応援も頼んで」――。付属4病院の脳外科の医師が画像も交え、治療方針を議論する。同科の高尾洋之准教授は「意思決定を透明化し、より早く治療に入ることができる」と語る。

 夜間は経験の浅い若手医師が担当する場合も少なくない。大学病院であっても、その時に院内に詳しい医師がいるとは限らない。これまでは若手で判断できないと、上級医が深夜でもどう処置すべきか決めるために病院に駆けつけた。こうした事態はなくなり、1分1秒を争う中で迅速な判断が可能になったという。

 ただこれらのシステムの導入には、初期投資だけで数百万円がかかるケースもある。自治体病院を中心に赤字に苦しむ医療機関が少なくない中、さらなるコスト負担は重荷だ。

 慈恵医大の高尾准教授は「現状ではソフト導入を診療報酬で評価する仕組みがない。遠隔診療を広めるには、一部でも支援が必要ではないか」と指摘している。

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■米は患者・医師直結型 日本も普及機運

 医療従事者間の情報共有・相談のためICT活用が目立つ日本と違い、米国では医師と患者が電話やインターネットで直接やり取りする遠隔診療が広がっている。

 米国では患者が受診できるのは保険会社が指定する医療機関に限られ、診察は救急時を除けば完全予約制が多い。日本に比べると医師にかかりづらい環境にあり、代わって「非対面型」の診察が注目を集めている。

 触診や聴診、検査はできないため正確な診断は難しいが、通話や動画などで症状を伝え、処方箋を出してもらうことができる。米国のヘルスケア企業などへの投資実績があるベンチャーキャピタル「WIL」(東京・港)の久保田雅也パートナーは「薬局の通信機器を介して診断し、その場で薬を調剤するサービスも始まっている」と話す。

 日本でも非対面型の診療が進む可能性がある。これまで局長通知でへき地を除けば診察は「対面が原則」としてきた厚生労働省は8月、「へき地に限らない」と緩める通知を出した。これに先立つ6月には遠隔診療の推進を明記した規制改革実施計画が閣議決定されている。地方中心に医師不足が続く中、遠隔診療の幅が広がるかもしれない。

(山崎大作、大西綾)

[日本経済新聞朝刊2015年11月8日付]

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