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糖尿病、薬局で発見 指先検査で病院受診促す 生活習慣、早期に改善

2015/6/19 日本経済新聞 夕刊

 薬局などで指先から微量の血液を採取して、糖尿病の可能性を判定する動きが広がり始めた。最初は症状がないため気付かない患者を、日常生活の中で見つけて、早い段階で治療を始められるようにするのが狙いだ。脳梗塞や心筋梗塞などで命を落とすリスクを下げることにつながるという。早期発見の新拠点として定着するか、注目を集めている。
薬局の店頭で、専用の針を使い自分で採血する糖尿病検査(東京都足立区)

 「えっ、何で私なの」。3月、東京都足立区の薬局で、自己採血による検査を受けた埼玉県三郷市の中川麻利江さん(54)は驚いた。薬剤師に「(糖尿病の疑いがあるから)病院を受診した方がいいですよ」と勧められたからだ。

 もともと糖尿病の恐れがあった夫に検査を受けさせようと、一緒に薬局を訪れた。検査を受けてみたところ、糖尿病の疑いがあることを知ってショックを受けたという。その後、医療機関を受診し、幸い糖尿病ではなかったが、「気をつけなければいけないとわかってよかった」という。

 検査結果を受け、中川さんは食事は野菜から先に食べたり、白米を食べ過ぎないように注意したりしている。軽いスクワットなどの運動も心がけ予防に努めている。「9月ごろ、薬局で再検査するつもりだ」という。

 中川さんが受けた薬局での指先検査は、筑波大学の矢作直也准教授が、2010年10月から足立区の薬局10店舗で始めた臨床研究。12年10月からは徳島県の薬局も同様に開始した。

 検査を受ける人は専用の針を指に刺して、ごく微量の血液を採取し、薬剤師などが血中のヘモグロビンA1cの値を測る。ヘモグロビンA1cは最近1~2カ月の血糖値の平均を示す。血糖値は測定前後に食事をとったか否かで数値が変わるのに対し、平均値であるヘモグロビンA1cの方が信頼度が高い。この値が6%以上の人は糖尿病の予備軍とされ、薬局で病院を受診するよう勧められる。

 足立区は23区の中で糖尿病の医療費が高く、徳島県は全国で糖尿病がもととなった死亡率が最も高い。このため、薬局の指先検査で糖尿病を早期発見する臨床研究に乗り出した。今年3月に終わり、合計4724人が検査を受けた。その結果をみると医療機関の受診を勧められる6%以上の人は1175人と約4人に1人にのぼったという。

 日本で糖尿病が強く疑われる人は男性の6人に1人、女性の10人に1人とされる。だが、現在、40歳以上が対象の特定健診(メタボ健診)の受診率は全国で3割程度と低く、健診だけでは糖尿病の疑いがある人を十分、見つけ出すのは難しい。糖尿病は早期の段階では症状が出ないため、病院にはなかなか足が向かない。

 一方、糖尿病が進むと、腎臓が悪くなって透析しなければならなくなるなどの合併症が起きる。動脈硬化が進み脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクも高まる。早期発見するのはこうした合併症のリスクを減らすのが狙いだ。「予備軍の人が食生活に気をつけたり、運動をしたりすることで、3割程度は発症を減らせる」と矢作准教授は早期発見の重要性を指摘する。

 ただ、薬局の検査で医療機関への受診を勧めた人のうち、実際に医療機関を受診したのは2割弱だった。足立区にあるあやせ薬局の管理薬剤師、長井彰子さんは「今後は、受診率を高めるのが課題」と話している。

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■昨春の規制緩和で可能に 「測定室」拡大 検査増めざす

 厚生労働省は2014年4月、規制緩和による法改正を実施。薬局などが「検体測定室」として国に届け出れば、自己採血による血液検査ができるようになった。

 鳥取県では14年11月から15年2月末まで県内15薬局で262人のヘモグロビンA1cを測定。糖尿病の疑いのある人が約4人に1人の割合で見つかった。茨城県でも14年10月から15年3月末に45薬局で実施。208人中20人が糖尿病の受診を勧められた。臨床研究が終了した足立区は有料だが、5月から薬局で糖尿病の疑いがある人を早期発見する事業を始めた。

 検体測定室は全国に約1000カ所あるが、頭打ちの状態。筑波大の矢作直也准教授らは5月、検体測定室連携協議会を設立し、薬局などの測定室開設の支援を始めた。3年後に5000店舗に拡大することで、毎年90万人が検査を受けることを目指している。

 現在検査を実施している薬局は自治体のホームページなどで探せるほか、同協議会がホームページで8月以降に掲載する予定だ。

(西山彰彦)

[日本経済新聞夕刊2015年6月18日付]

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