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川崎、禅寺丸柿 歴史伝える甘み 貴重な水菓子 江戸魅了

2014/10/29 日本経済新聞 夕刊

 小さくて種がたくさん、だけど甘い――昔懐かしい甘柿が川崎市北部の麻生区にある。10世紀に開山された東国鎮護の勅願寺、王禅寺に原木がある日本最古の甘柿「禅寺丸柿」は今年、発見から800年を迎えた。かつては貴重な水菓子として江戸っ子の人気を集め、今なお山梨県の醸造所でつくる柿ワインの材料として出荷を続ける。

 「実の先(果頂部)に渦巻きができているとおいしい。さらに十文字に割れていると最高に甘い」。柿生禅寺丸柿保存会の水野英雄会長(71)が自宅の庭で収穫した柿をむきながら教えてくれた。みてくれは悪いが、本当に甘い。糖度は20度とスイカやメロンを上回り、ブドウの最高品種並みの味わいがある。

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果肉に不溶性タンニンの「ゴマ」が広がった実がおいしい

 熟度を増した甘い柿は皮の表面に「粉(こ)がふく」といい、果糖が結晶を作る。禅寺丸はさらに包丁で切った断面に「ゴマ」と呼ぶ不溶性タンニンの斑点が広がる。タンニンは溶けると舌がしびれるほどの渋みを出すが、不溶性なら全く感じない。柿に詳しい果樹研究家の今井敬潤・岐阜女子大非常勤講師(65)は「種がないとゴマができない」と禅寺丸の特性を話す。

 種は柿1つに7、8個あり、プップッと種を出しながら食べると、懐かしい味がよみがえる。禅寺丸柿の歴史を語り継ぐ「柿岡塾」の中山茂会長(78)は「民話の『さるかに合戦』でサルが食べたりカニに投げつけたりする柿は禅寺丸ではないか」と子供の頃から考えている。秋の風物詩といえる禅寺丸柿を愛するファンは多く、毎年収穫期の10月になると、保存会や麻生区のJAに入手できる店などの問い合わせが相次ぐ。

 現在、販売は地元の柿生駅商店街で催す「柿の日」などのイベントが中心だが、商店街の菓子店のミツバチや禅寺丸本舗では柿ワインを使ったパウンドケーキや和菓子を通年販売している。ワインは熟成が進むと菓子生地の味わいを深くし「贈答品としても人気が高い」(禅寺丸本舗の中村陽介社長)という。

 日本の柿は本来、渋柿で、禅寺丸柿は1214年、王禅寺の山中で偶然に発見された。その後、同寺の中興の祖、等海上人が1370年、接ぎ木による栽培を村民に勧めたのが市場に広がるきっかけとなった。徳川家康が「王禅寺丸」と名付けたといわれ、村人は多摩川を渡し船で運び、江戸で販売した。

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