緑なのに「青信号」日本だけ 訪日客戸惑う交通ルール
「青信号って緑色だよね?」。こう感じたことはないだろうか。記者(36)もそんな一人。長年の疑問を解き明かしていくと、国内外の交通ルールの違いも浮き彫りになってきた。
9月下旬、横浜市鶴見区の京三製作所を訪ねた。道路、鉄道の信号機の製造・販売の業界大手。交通機器事業部の真鍋文夫技術部長によると、最新式の信号機は発光ダイオード(LED)を使用している。光の波長の長短で色を変え、青信号は最も短い波長で表現しているという。幅約1メートル、縦約40センチ。これほど近くで見たのは初めてだが、やはり緑色に見える。
それもそのはず。国際標準化団体の国際照明委員会(CIE)は道路上の信号機の灯火を識別しやすい赤、黄、緑の3色と規定する。海外では「グリーンシグナル」と呼ぶ。やはり緑色だ。道案内などで外国人観光客に「ブルーシグナル」と言っても、すんなりとは通じないようだ。
なぜ日本だけ「青」信号と呼ぶのか。東北大学電気通信研究所の栗木一郎准教授によると、信号機の導入は1930年。新聞各社が緑信号を「青信号」と誤って報道し、定着したという説が有力になっている。法令上も47年に「緑色信号」から青信号に改められたという。
大先輩のミスを指摘されたようで決まりが悪い。でも、なぜそんな間違いをしたのだろう? 「語呂が良かったのもあります。そもそも日本人は青色に非常になじみがあるので、仕方ないかもしれませんね」と栗木さん。
栗木さんによると、古代の日本にあった色の概念は赤、白、青、黒の4種類のみだったという。果物や動物など食べられるものは「赤」、その背景の山々などは「青」と広範囲の色をカバーしていたとみられる。
言われてみれば現代でも緑色の物体を青と表現することもある。「新緑の青葉」や「青りんご」は古代の名残か。信号機も日本は世界で最も青に近い緑を採用し、海外製とは微妙に発色が異なるという。
信号の呼び名や色が日本独自だと外国人は混乱しないのか。「むしろ道路標識や交通ルールの違いに戸惑うケースが多いんです」。全国レンタカー協会の甲田秀久専務理事が教えてくれた。
逆三角形でおなじみの「止まれ」の標識は海外は八角形が大半で、2017年から「STOP」を併記するようになった。同じく逆三角形の「徐行」も「SLOW」が併記された。米国では合流地点にある「道をゆずれ」の標識が逆三角形のため、混同するのを防ぐ狙いもあるそうだ。
鉄道踏切前での一時停止ルールも「日本独自」(甲田さん)。同協会は18年、外国人向けマニュアルを定め、訪日客が混乱しないよう会員各社に説明の徹底を求めている。
1日最大20組程度の外国人客が訪れるトヨタレンタカー羽田空港店(東京・大田)では、交通ルールの説明に10分ほど費やす。韓国から到着したばかりという家族連れが、スタッフの説明に注意深く耳を傾けていた。静岡県の大型アウトレット店に行くそうで、何度も左右を確認しながら車道に進入していった。
右側通行の米国では、赤信号で右折できる交差点もあるそうだ。左側通行の日本では、矢印式の信号などがない場所で、赤信号のまま左折すれば大事故にもつながる。海外には左折時、一旦中央部分の専用エリアに入って停止しなければならない交差点もあるという。外国の運転では「自分の国の非常識」に従わなければいけないかもしれない。
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海外、「面白標識」にクスッ
日本の道路標識は「案内」「警戒」「規制」「指示」「補助」の5種類。シカなどをあしらった「動物注意」の標識もあるが、真面目なお国柄を映してか、比較的シンプルなデザインが多い。一方で海外には「ウミガメやカンガルーといった動物だけでなく、サンタクロースの標識もある」(レンタカー大手、米ハーツ日本法人の広脇敬さん)という。見掛けたら思わず、クスッとなりそうだ。海外に行く際は、ユニークな道路標識を探してみるのも面白いかもしれない。
(宇都宮想)
[NIKKEIプラス1 2019年10月12日付]
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