映画『天気の子』 現実と幻想 行きつ戻りつ
前作「君の名は。」で話題を呼んだ新海誠監督の新作アニメだ。近年続く異常気象をテーマに、少年少女の淡い恋心を絡ませた近未来の物語である。
2021年の東京は、異常気象から数カ月も晴れの日がなく雨が降り続いている。故郷の島から家出した16歳の少年・帆高(声は醍醐虎汰朗)は行く当てもなく、船で知り合った須賀(小栗旬)の編集プロダクションで住み込み助手となる。
ある日、帆高は新宿の街でチンピラにからまれる陽奈(森七菜)を、拾った拳銃の威力で助け出す。陽奈は前年に母親を亡くし小学生の弟の凪(なぎ)と暮らしているが、そんな陽奈が晴天をもたらす不思議な能力を持つことを帆高は知る。
帆高は陽奈を「晴れ女」に仕立てネットを通して仕事を始める。ところが、拳銃を拾った帆高のことが警察に知れて追われる身となる。帆高は陽奈と凪と一緒に逃げ出すが、やがて陽奈の晴天を呼ぶ能力が彼女の身体を透明にすることが知れる。
この陽奈の能力は廃屋の屋上にある神社で得られたものであり、彼女が人柱になることで異常気象が収まるという古来の伝承に由来する。前作でも神社に奉納された口噛(か)み酒が身体入れ替わりのモチーフだったように、新海作品では神社が大きな存在となっている。
前作では隕石(いんせき)落下の光の印象が強烈だったが、今回は雨。それも豪雨やシトシト雨、洪水や水滴など雨模様が全編で描かれる。光と水という難しいアニメ描写に新海監督が焦点を当てているのは面白い。
陽奈と帆高が神社から空高く舞い上がり、魚が泳ぎ野花が咲く積乱雲の中で動き回る天上の幻想的なシーンに比べて、地上の新宿や代々木などの街並みはたいへんリアルな描写に徹している。この現実感と幻想味の間を行きつ戻りつする世界が何とも魅力的である。1時間52分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2019年7月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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