腰・膝の関節、簡単筋トレで守る 痛み改善し転倒予防
道具不要・運動苦手でも簡単
関節を守る筋肉を鍛える「関節トレーニング(関トレ)」はシニア世代が自宅で手軽にできる健康法だ。道具は使わず動作は単純。体力がない人や運動が苦手な人でも無理せず自分のペースで継続できる。腰や膝の筋肉を強化でき、加齢による腰・膝の痛みの改善や転倒防止にもつながる。
「見た目はかなり地味ですが、普段使わない筋肉を使うので効果があります」
2018年12月1日、東京・新宿の朝日カルチャーセンターで開かれた「筋力の老化を防ぐ簡単筋トレ」講座。理学療法士の講師、笹川大瑛さんの掛け声で、27人の生徒が片足のつま先を反対側のかかとに向けて内側にひねる。そして、ひねった足を膝を曲げずに床から浮かせてそのまま10秒間静止する。足を下ろすと、苦しさから解放された「ハァー」という声が一斉に上がった。これが腰の関節周りの筋肉を鍛える運動(写真(1))だ。
腰を丈夫にする動作はもう一つある。あぐらをかいて両足の裏をくっつける。股間からかかとまでの距離は約50センチ。背中を丸めず胸をつま先にゆっくり近づける(写真(2))。実際にやってみると、ベルトの下あたり、股関節の付け根の筋肉に負荷がかかっているのがわかる。
定員20~30人のこの講座は定期的に開かれ、毎回満員になる。1日の参加者は60代から70代の女性が中心だ。2回目の受講という東京都狛江市の女性(66)は「自宅で母を介護しています。体を持ち上げようとするとつらくなってきたので、筋力をつけたいと思いました」と参加した理由を語る。名古屋市から日帰りで参加した女性(50)は「ネットで講座を知りました。早速、自宅に戻って鍛えます」と笑顔で話した。
笹川さんが腰の運動と並んでシニアに勧めるのが、中高年が痛めやすい膝の運動だ。いすに座って股を開き、片足のつま先を前に向けて膝を力を入れて曲げる(写真(3))。膝を曲げたり股関節を伸ばしたりする時に使う太ももの裏側の筋肉を鍛える運動だ。
もう一つが、あおむけに寝て片足のつま先を内側に向けて尻を浮かせる運動だ(写真(4))。寝返りを打つ格好で肘をついて尻を浮かせる。太ももに力を入れることで膝の関節を支える筋肉を強化する。この部分は下半身の左右の重心移動に大きく関係している。電車でつり革につかまって立ってもよたよたするのは、この筋肉がうまく働いていないことも要因という。
4つの運動をそれぞれ3回繰り返す。「毎日、10分間程度の運動で効果がある」と笹川さんは話す。こうした「関トレ」は筋力回復を目的に各地の病院で患者のリハビリとしても採用されている。
東京都健康長寿医療センター研究所の金憲経研究部長も「関節トレーニングを勧めます」と話す。高齢になると腰や膝の痛み、転倒による骨折が増え「老年症候群」と呼ばれる。いずれも悪化すると歩行困難になり介護が必要になる。それらにつながる原因の多くが筋力低下という。
筋肉は加齢とともに衰えると思われがちだが、適度なトレーニングで維持・強化できる。継続すれば、健康寿命が延ばせて生活が楽しめる。
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間違った筋トレ けがや故障原因
東京都健康長寿医療センター研究所が昨年、東京・板橋区在住の65歳以上の女性1035人に痛みがある体の部位を調査したところ、「腰」が38%、「膝」が35%と圧倒的に多かったという。腰の痛みがある人は転倒した経験も多い。調査した金部長は「シニアの間違った筋トレは、鍛えるどころか、けがや故障につながる」と注意を促す。膝が痛いのにスクワットしたり、足が弱っているのにジョギングしたりするのはかえって症状を悪化させるという。
一方、関トレは「腰や膝と股関節を守るため、いわば体の中にサポーターを作るイメージ」(金部長)。男性に比べて筋肉量が少ない女性で痛みのある人に効果的な運動プログラムを研究開発中だ。
(シニア・エディター 近藤英次)
[日本経済新聞夕刊2018年12月26日付]
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