登場人物は芥川や太宰… 漫画・ゲーム化で女子つかむ
芥川龍之介や太宰治ら国内外の文豪をキャラクター化した漫画やゲームが相次いで登場、若者や女性の人気を集めている。これにより文学館への来場者増などの効果も生まれている。
「――助かったか……ちぇっ」
(『ちぇっ』つったかこの人!?)
「君かい 私の入水(じゅすい)を邪魔したのは」
「邪魔なんて 僕はただ助けようと」
主人公は「中島敦」
漫画「文豪ストレイドッグス」(KADOKAWA)の冒頭シーン。主人公の若者が、川に飛び込む長身の美青年に出くわす。2人の名は中島敦と太宰治。いずれも昭和10年代に活躍した作家だ。
同作は国内外の文豪が戦うアクション漫画。芥川龍之介、谷崎潤一郎ら作家や詩人、歌人など40人超がキャラクター化されて登場する。ドストエフスキーほか海外の作家も登場する。
連載が始まった4年前、戦国武将をモデルにした「戦国BASARA」「戦国無双」などのアクションゲームが人気を集めていた。「教科書でなじみ深い文豪をイケメンのキャラクターにして戦わせたら、新鮮で面白いと思った」と原作者の朝霧カフカ氏。10~20代の女性を中心に人気が広がり、関連書籍を含めたシリーズ累計発行部数は500万部を超える。
登場人物はそれぞれ代表作にちなんだ能力を持ち、太宰は相手の能力を無効にする「人間失格」、与謝野晶子は傷を癒やす「君死給勿」を駆使して戦う。「漫画をきっかけに本を買った、文学部に進学した、などの声をもらうのがうれしい」(朝霧氏)
文豪をキャラクター化したゲームも人気だ。DMM GAMESが昨年11月に出した「文豪とアルケミスト」は芥川や太宰などのキャラクターを集めて、敵と戦う。20代の女性を中心に60万人が利用する。
夏目漱石が門下の芥川よりも若く見えないように描くなど、なるべく史実に即した設定になるよう心がけて作られている。文壇のエピソードも盛り込んだ。例えば芥川と島崎藤村が意見をぶつけ合うシーンは、芥川が遺作で藤村を批判したとされる逸話から着想したという。
文学館も来場者増
「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」(神田桂一、菊池良著・宝島社)は、文学マニアの2人のフリーライターが著名作家の文体をマネてカップ焼きそばについて書いた本だ。紀貫之から村上春樹、又吉直樹まで100の文体が登場する。6月刊行で発行部数は11万部。ベストセラーになった。
夏目漱石の項には「焼蕎麦っちゃん」とある。「坊っちゃん」のパロディーだ。そして「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」「湯を沸かしてカップの蓋を開けると、かやくとソースを取り出す。これが面倒臭い。おれにはなぜ最初から混ぜておかないのか、ちっとも分からない」などと書く。
「『小供』の表記や、身も蓋もない話を言い切ることが漱石の特徴。代表作とデビュー作の最低2冊は読んで、一人称や語尾、改行の仕方、文体装飾の癖を見つける」と著者の一人の菊池氏はコツを明かす。来月刊行する第2弾には、今年のノーベル文学賞に決まったカズオ・イシグロら120人が登場するという。
文学館や文芸出版社もこれら人気作と積極的に手を組んでいる。「文豪ストレイドッグス」にも登場する詩人、中原中也の資料を集めた中原中也記念館(山口市湯田温泉)。この漫画の展示コーナーを2カ月間設けたところ、来場者数が前年同期比で1.9倍に増えた。「20~30代の女性が多く、新規の読者の開拓につながっている」(同館)と手応えを語る。
新潮文庫は10月から、川端康成「雪国」など6作品に「文豪とアルケミスト」のイラストを用いた限定カバーを付けて売り出した。漫画やゲームの人気で、文学自体のファンも増えるという好循環が生まれつつあるようだ。
(文化部 佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2017年11月20日付]
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