『ノクターナル・アニマルズ』 心理劇と推理劇の照応
トム・フォード監督の長編第2作。グッチやサンローランのデザイナーとしても名高い人物だが、本作で映画作家としての地歩を確立したといえよう。
ヒロインのスーザン(エイミー・アダムス)は先端的な美術を見せる画廊のオーナー。20年前に小説家志望の夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)と離婚したが、その元夫から『ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)』という小説が送られてくる。
その小説はトニーという男が主人公だった。トニー(ギレンホールの一人二役)は、夜のドライブ中に暴漢たちに絡まれ、妻と娘を拉致される。トニーは保安官ボビーの協力を得て、妻と娘の行方を追い、犯人らしき男たちを逮捕させるが、証拠不十分で釈放されてしまう。すると、ボビーはトニーに、自分が肺ガンで余命1年だと告げ、ある計画をもちかける……。
小説を読み終えたスーザンは元夫と連絡をとり、20年ぶりに再会することになるが……。
スーザンの日常生活を描く部分と、暴漢に妻と娘を奪われた男の話という、まったく異なったドラマが並行的にくり広げられる。前者は細やかな心理ドラマとして秀逸であり、後者は強烈なサスペンスのみなぎる推理劇として、ともに見応え十分だ。
スーザンの元夫と暴漢に襲われた男を同じ役者が演じるという設定は、いうまでもなく原作の小説では不可能なものである。だが、この巧妙な仕掛けと、元夫がスーザンを「夜の獣」と呼んでいたことから、2つの物語の照応関係が明らかになる。こんなドラマの構造を組みこんだ映画は類例がないのではないか。
登場人物のまとう華やかなファッションや、刺激的な美術のタブローやオブジェがふんだんにちりばめられ、しゃれたアート映画としても大いに楽しめる。1時間56分。
★★★★
(映画評論家 中条 省平)
[日本経済新聞夕刊2017年10月27日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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