新名物・長崎そっぷ 昨秋登場、和洋スープで地魚PR
長崎といえば、ちゃんぽんや皿うどん、トルコライスが全国的なご当地グルメだ。そこに長崎の魚をもっとアピールしようと新顔「長崎そっぷ」が昨秋、現れた。そっぷとはオランダ語でスープのこと。鎖国時代に長崎の出島のオランダ商館で食べられていた魚のスープ料理を、長崎の現代の和洋の料理人・シェフがアレンジ。それそれの店が個性あふれる長崎そっぷを提供している。
観光名所の眼鏡橋の近くにあるピアチェーボレは、女性でにぎわうイタリアンレストラン。オーナーシェフの今道康弘さん(47)は、昨夏、長崎市がそっぷの企画を立ち上げた時に洋食の基本レシピを考えた。メインは魚介類のブイヤベーススープにサフランライスやパンを添える。オプションで長崎産の魚や野菜の3種盛りのプレートを付けられるが、細かい所は各店の創意工夫に任されている。
ピアチェーボレのそっぷは地元産茂木エビで取っただしとトマトソースをベースに、この日は地元のヒゲダイやアワビの肝、ワタリガニが入る豪華版。「ニンニクを控えめにし、女性が食べやすく、写真映えもする」(今道氏)。日によって市場に入る魚が変わるので、価格も変動する。今道さんはアサリのスープなど家庭で簡単に作れるそっぷの料理教室も開いている。
長崎そっぷが江戸時代に食べられていた出島の中にあるのが出島内外倶楽部レストランだ。同店のそっぷは、出島の形にしたバターライスや魚のムースにエビの風味のソースをまぶす。運営する「長崎の食文化を推進する会」の山下慧理事長(72)は「最初はこだわりすぎて調理時間がかかり過ぎた」と苦笑い。今夏から今の内容に変えた。
店舗の建物は1903年(明治36年)にリンガー氏によって建てられた英国式明治洋風建築。長崎独特のミルクセーキも頼めるため、修学旅行生も集まる。
長崎県は北海道に次ぐ2位の漁獲量を誇る。「長崎の魚のいろいろなおいしさを知ってほしい」(長崎市水産農林政策課)と始まったのが「新・ご当地グルメ」プロジェクト。地元の料理研究家、飲食店やホテル関係者、消費者が集まり議論を重ねた。出島のオランダ商館で正月料理の一つとして伊勢エビのスープ(ケレヒトソップ)が出されていたことから、長崎そっぷとすることが固まった。
そっぷには和食もある。ホテルニュー長崎の中にある日本料理店、錦茶房は、戻しシイタケと長崎のアゴだしがベースのそっぷ鍋を提供、大ぶりのタイが入り、炊き込みごはんにスープをかけて食べる。料理長の溝永達也さん(50)は「炊き込みごはんの具材の戻し汁もスープに足した」とこだわりを語る。懐石仕立てで五島のサザエも圧力鍋で柔らかくした。
日本料理店、縁粋のそっぷは島原産のコンブとかつお節からだしをとった。角煮湯葉巻きや五島うどんなど、ご当地具材がふんだんに入る。角煮は湯葉がしっかり巻いてあるので、スープの味を邪魔しない。刺し身とてんぷらもつき、おなかいっぱいになる。森保博社長(63)は「観光客がよく頼むが、地元の高齢者のリピーターも多い」と1年たって浸透してきた様子。
そっぷとは別に売り出し中の新・ご当地グルメがサバサンドだ。サバも長崎は全国トップクラスの漁獲高。サバサンドのレシピを任された、さかもとの坂本洋一社長(49)は、数年前、サバサンドで有名なトルコで本場の品を食べた。「サバはパンに合わないと思っていたが、合う」
オリーブオイルでマリネして焼いたサバをバーナーで皮をあぶり香ばしさを出す。「サバの脂をさっぱりさせるため」、長崎の伝統果実のユウコウや季節のかんきつ類を切ってはさみ、県庁の中にあるシェ・デジマで出している。地元の高校とも連携、イベントなどでも出店する。
長崎では佐世保バーガーが有名だが、「街中で若者が歩きながら食べる風景が広がれば」と坂本さん。サバをスモークしたり、みりん干しにしたり、パニーニやバケットに挟んだり、と様々なサバサンドを様々な店が出している。
長崎そっぷを出す店は和洋合わせて15店を超えた。サバサンドは10店以上ある。レシピの縛りが緩くて、店ごとに全然違う味わいが楽しめるところが面白い。
そっぷ(オランダ語でスープ)が食べられていた出島は、江戸時代、オランダの商館が平戸から移され、日本とオランダ、欧州をつなぐ唯一の貿易地だった。
現在の出島はオランダ船船長や商館長(カピタン)が住んでいた部屋が復元され、室内では当時の生活を再現。昨年は新たに商館員の住まいや銅や砂糖の保管倉など6棟が復元された。11月にはいよいよ復元された町並みにアクセスしやすくなる表門橋が架かり、出島に橋を渡って訪れられるようになる。
(長崎支局長 三浦義和)
[日本経済新聞夕刊2017年10月17日付]
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