ギョーザは味噌ダレ ひと味ちがう川崎の中華
川崎市の川崎区には中華料理店が多い。味噌をつけて食べるようになった「かわさき餃子(ギョーザ)」、ゴマを使わない担々麺など、味付けも独特だ。独自な発展を遂げた「川崎中華」とでも呼ぶべきジャンルを形成しつつある。
JR川崎駅周辺には、1950年代からギョーザを提供する店が多数現れた。中華料理店、成喜(なるき)は1937年に日本料理店として創業したが、店主がたまたま食べたギョーザの味に魅せられ、53年からギョーザを出し始めた。
3代目店主の鬼塚保さん(71)は「ギョーザの町・川崎の歴史は宇都宮や浜松より古い」と胸を張る。23、24日には川崎市の川崎競馬場で「全国餃子まつり」が宇都宮や浜松のギョーザ店も参加して開催された。
鬼塚さんが会長となって2007年に「かわさき餃子舗の会」を結成。そこで出てきたアイデアが「各店共通の新しいギョーザのタレを作ってはどうか」というものだった。サンプルを何種類も作り「これなら行ける」と採用されたのが「かわさき餃子みそ」だ。
神奈川県内で醸造された味噌をベースに、すりごま、サンショウ、しょうゆ、砂糖などを加えて作った餃子みそと、酢、ラー油を7対2対1の割合で混ぜ、ギョーザに付けるのがお勧めという。実際に成喜のギョーザで試すと、味噌の濃厚な味わいでコクが増し、なかなかおいしい。しょうゆ主体の普通のタレも用意して、1皿で2種類の味を楽しむのもいい。
ギョーザ以外の料理にも応用できる。野菜いためなどにかけるのも味に変化が出る。かわさき餃子舗の会員16社の22店舗でテーブルに餃子みそが置いてあるほか、瓶の販売もしている。鬼塚さんによれば「今の時期ならサンマの塩焼きなど焼き魚にかけてもおいしい。冷ややっこにも合う」という。
かわさき餃子舗の会副会長の三神祐司さん(55)が経営する、ラーメン新世のギョーザはニンニクが控えめなのが特徴。三神さんは「全国餃子まつりの開催をきっかけに、かわさき餃子を全国にもっともっとPRしたい」と意気込む。
川崎駅近くのアーケード商店街に立地する天龍銀座街店は看板に「天下一いずま」という文字を掲げる。「まずい」を逆さにしたもので「おいしい」という意味にもとれる。庶民的な町場の中華料理店という雰囲気で、午前2時まで営業し、昼も夜もよく行列ができている。こちらも味噌でギョーザを楽しめるほか、タンメンなど麺類をセットで注文する客が多いようだ。
「川崎独自の中華」はギョーザ以外にもある。特に地元民に人気があるのが「ニュータンタンメン」だ。
元祖ニュータンタンメン本舗京町店は創業55年。最初は焼肉店だったが、創業者が中国で食べた担々麺を気に入り「日本人向けにアレンジすれば人気が出るのでは」と考案したのがニュータンタンメンだ。
一般的な担々麺で使われるサンショウとゴマは、ニュータンタンメンでは一切使わない。塩味のスープをベースに、トウガラシと溶き卵、ニンニク、ひき肉が入った赤い色のスープが特徴だ。辛さは「控えめ」「普通」「中辛」「大辛」「メチャ辛」の5段階で「メチャ辛」は「普通」の8倍のトウガラシが入る。
ニラやニンニクダブル、ひき肉ダブルなどのトッピングも人気。中辛のニラトッピングを注文してみると、一般的な担々麺とはまるで別物だが、トウガラシの辛さが溶き卵とうまくマッチしている。ちょっと癖になりそうな味だ。
よく食べに来るという会社員(42)によれば「川崎で生まれ育った人間にとって、ニュータンタンメンはソウルフード。大人になってから東京などで一般的な担々麺を初めて食べて、ニュータンタンメンとまったく違うことに驚く人も多い」のだという。
元祖ニュータンタンメン本舗は現在、川崎を中心に直営7店舗とフランチャイズチェーン(FC)26店舗が営業中だ。直営店で修業したスタッフが独立したFC店が仙台市や長野県上田市にもある。運営会社、みなもと(川崎市)の店舗統括本部長、亀井正力さん(38)は「今後は全国展開が目標」と話す。「川崎のソウルフード」が全国制覇をなし遂げる日も来るのだろうか。
焼きギョーザに代表される、日本で一般的なギョーザ自体が、日本で独自に発展した料理といえる。中国では水ギョーザか蒸しギョーザが普通。ギョーザの餡(あん)の中にニンニクを入れるのも日本独自の料理法だ。
日本でギョーザが広まったのは終戦後、中国からの引き揚げ者が東京・渋谷の恋文横丁で売り始めたのが始まりだという説がある。川崎の成喜の創業者も「渋谷の恋文横丁で生まれて初めてギョーザを食べたらしい」(鬼塚さん)という。
(川崎支局長 宮田佳幸)
[日本経済新聞夕刊2017年9月26日付]
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