『ジーサンズ はじめての強盗』 3老人、世間に一矢
年金消失――の衝撃から老人トリオが思いついた"俺たちの銀行強盗"の顛末(てんまつ)がやるせなくもおかしい。
俳優出身、脚本を書き、テレビドラマの演出でも知られた実力派ザック・ブラフ監督が老名優3人と共に、理不尽な世の中に一矢報いて見る者をニヤリとさせる人情犯罪ドラマ。
ウィリー(モーガン・フリーマン)、ジョー(マイケル・ケイン)、アル(アラン・アーキン)はニューヨークのブルックリン生まれ。同じ工場で働いて退職後も付き合いは相変わらず。ところが会社の都合で年金が打ち切り。ジョーが娘と孫の3人で暮らす家のローンはこれまでの3倍に、と銀行から通告を受け、ウィリーも病気の悪化が宣告されて老人3人には激震が走った。
そんなとき、ジョーが銀行でギャングに遭遇する事件が起きたことから、アルが銀行強盗を思いつく。近所のスーパーで万引きや逃走の予行演習(!?)をして、老人クラブの年に1度の祭りをアリバイに利用する。うまくいくかに見えたが巻き添えになった少女が動かぬ証拠を目撃していた。
銀行強盗は犯罪。悪いに決まっている。だが、こつこつ積み立てた年金を勝手に支払い停止にした会社や陰で操る銀行は悪くないのか? そんな思いをチラチラ覗(のぞ)かせる脚本は銀行員やFBI捜査官には分が悪い。彼らは間抜けな笑い者だ。
その反対に老人たちには毎日通うコーヒーハウスのウエイトレスやアルのセクシーな恋人、大人以上に聡明(そうめい)なジョーの孫娘などの頼もしい味方がいる。
望みは老人が安心して暮らせる日々。コーヒーにアップルパイを添える程度の余裕があればそれで十分、という姿勢の下、揃(そろ)ってアカデミー賞受賞の老名優が見せる芝居は軽妙洒脱(しゃだつ)。3人が年下の監督の掌(てのひら)の上で踊っているように見えるのも愉(たの)しく、悪くない。1時間36分。
★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2017年6月23日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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