美術館に「おしゃべりOK」の日 子連れでも安心
静かに鑑賞するのがマナーとされる美術館。とはいえ、あまり神経質になるのも考えものと、あえて「話してOK」の日を設ける施設が増えている。子供連れでも気兼ねなく出かけられる。
赤や緑などインパクトの強い色が多用され、どこかユーモラスな版画が並んだ「横尾忠則 HANGA JUNGLE」展。東京都の町田市立国際版画美術館で18日まで開かれていた人気の展覧会だが、会期中の水曜に訪ねると、幼児を抱いた夫婦が来館していた。作品を指さしながら、うれしそうに笑う子供。館内に声が響くが、それを気にする人はいない。
同館は毎週水曜と土曜を「話してもOK」の「トークフリーデー」にしている。子供連れの夫婦は、この日を目指して来たという。父親は「幼いときから本物のアートに触れさせたいが、先日も別の美術館で子供が泣いて外に出ざるをえなかった。仕方がないとは思うが、子供連れでも気兼ねせず楽しめる日があるのはありがたい」と話す。
日本の美術館は非常に静かで、声を出すのがはばかられる雰囲気の所が多い。そこで町田市立国際版画美術館は、もっと会話しながら自由に作品を鑑賞してほしいと、数年前からトークフリーデーを始めた。こうした日に、館内が騒がしくなるわけではない。「美術館では静かに鑑賞するという習慣が定着している」と同館。でも「本当はもっと感想を言い合い、子供連れの方にも遠慮なく見に来てほしい」と話す。
新たな魅力発見
同じように今年6月から「フリートークデー」を導入するのが東京都渋谷区の戸栗美術館だ。通常は休館の月曜を毎月第4月曜に限り、開館して会話を楽しめるようにする。「来館者同士が話し合いながら鑑賞することで、作品の新たな魅力発見にもつながる」(同館)と話す。
8月6日に初めて「会話を楽しむ日」を設けるのが、神奈川県立近代美術館 葉山(神奈川県葉山町)。もともと神奈川県では毎月第1日曜日を「ファミリー・コミュニケーションの日」とし、県の美術館や博物館などで子供連れの家族客に入場料の割引などの優待をしてきた。ただ、来館者の中には静かに作品を鑑賞したい人もいる。
「マナーは大事だが、周囲を気にしすぎて美術館を楽しめないのでは本末転倒」(同館)。そこで、自由に会話できる日を試験的に設けた。今後は来館者へのアンケートを参考に、継続するか検討するという。
そもそも美術館では話してはいけないのか。多くの美術館は、「そんなことはない」と即答する。
クレームと板挟み
一方で、来館者からの苦情で最も多いのが騒音に関することであるのも事実。「話し声がうるさい」のほか、最近では撮影可能な展覧会でシャッター音が耳障りという意見も目立つ。あらかじめ日程を告知した上で学芸員が作品について解説するギャラリートークや、画家らを招く講演会などでさえ、クレームが寄せられることがあるという。
施設側はもっと自由に作品を楽しんでほしいという思いと、クレーム対応との板挟みで苦慮しているのが実情だ。
長年、未就学児を対象とした美術鑑賞プログラムなどに取り組んできた大原美術館(岡山県倉敷市)の柳沢秀行学芸課長は「美術館でしてはいけないことは、原則的には他人に迷惑をかけないことと、作品に危害を加えないことの2つ。利用者にはこの原則を理解した上で、自由に美術館を楽しんでほしい」と話す。
(文化部 岩本文枝)
[日本経済新聞夕刊2017年6月20日付]
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