人気広がる苔の名所10選 梅雨こそ、魅力しっとり
森に神秘が広がり、古刹の庭を緑が覆う。
梅雨に映える苔の名所をランキングした。
苔の緑を楽しむなら、梅雨の時期が一番。体に水分を染み渡らせ、濃淡様々な緑でよみがえる。しっとりと雨に打たれる姿は苔の魅力を際立たせる。国内には1800種近い苔が生息しているという。
今回のランキングでは、自然の中の苔が上位を占めた。いずれも日本蘚苔(せんたい)類学会が選定している「日本の貴重なコケの森」に選ばれた場所。定期的に観察会を開いたり、専門ガイドが案内してくれたりと、受け入れ態勢が整っている点も評価されたようだ。ただ、苔を観察するときは立ち入り禁止区域に踏み入ったり、苔を傷めたりしないよう注意したい。
このところ目立つのは「苔ガール」と呼ばれる女性ファン。星野リゾート奥入瀬渓流ホテル(十和田市)では専用の宿泊プランを用意している。ガールに続き、「最近はオヤジの苔ファンも増加している」(左古文男さん)という。「ルーペやカメラなどがあれば簡単に始められるのが苔観察の魅力」(同)。苔ファンの裾野が広がりそうだ。
幻想的「もののけ」の世界(鹿児島県屋久島町)
縄文杉で有名な屋久島にあり、宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」の舞台といわれる幻想的な森。入り口の広場から白谷川の清流に沿って登山道が延び、天に向かってそびえる巨木や苔むす渓流の風景が続く。高温多湿の気候は苔の生育には最高の環境で、原生林の地表を珍しい植物が覆う。希少な苔類も多数生息している。「神秘的な雰囲気を感じさせる深い森は樹木や岩が苔に覆われ、苔植物が織りなす景観として非常に優れている」(道盛正樹さん)
「ルートを歩くだけで、どこを向いても苔ばかりの森に迷い込む」(上山美穂さん)。雨が多い森林を歩くので登山装備が不可欠。
(1)交通 宮之浦港からバスで約30分(2)大人1人の料金 500円(協力金)(3)連絡先 0997・42・3508(屋久島レクリエーションの森保護管理協議会)
高地特有 透き通る美しさ(長野県佐久穂町など)
北八ケ岳にたたずむ神秘的な湖、白駒池。周囲には深い原生林が広がり500種類近い緑の苔が生息している。針葉樹林帯に位置し「林床を覆うコケ群落は亜高山帯特有の種類が豊富」(道盛さん)。特に、葉が透き通り鮮やかな「ムツデチョウチンゴケの群落は見ごたえがある。ヒカリゴケをあちこちで見られるのも楽しい」(西村直樹さん)。池を中心に10カ所の苔の森が点在し「高齢者でも回れるコース設定が魅力」(左古文男さん)。
「10月までは毎月、苔観察会が開かれる」(藤井久子さん)。
(1)JR茅野駅からバスで約70分(3)0267・88・3956(佐久穂町産業振興課)
清流と鮮やか緑のコントラスト(青森県十和田市)
十和田湖から流れ出る奥入瀬川に沿って約14キロ続く渓谷は、十和田八幡平国立公園に属する天然記念物。躍動感あふれる水の流れに、緑豊かな自然林。その根元や岩の表面には豊かな緑鮮やかな苔が生息する。「何よりも清流と苔が作り出す景観が秀逸」(上野健さん)
「アップダウンが少なく遊歩道も広めなので、雨が降っていても散策しやすい。梅雨時にもお勧め」(藤井さん)。
(1)JR八戸駅からバスで約90分(3)0176・75・2425(十和田湖国立公園協会)
120種が覆う圧巻の「苔寺」(京都市)
「苔寺」の別名で知られる寺の境内は約120種類が庭園全体を覆う。「緑の厚いじゅうたんを敷き詰めたような美しさは圧巻」(青木之さん)。静かで落ち着きのある空間で、日本の情緒を感じることができる。
作庭は鎌倉時代の夢窓疎石にさかのぼり、数百年を経て多種多様な苔が居ついた。「歴史に思いをはせながら見るとより深みが増す」(藤井さん)。「長年丁寧に管理された時間の積み重ねが苔の生育に表れている」(上野さん)。1994年には清水寺などと共にユネスコの世界文化遺産に登録。拝観は2カ月前から往復はがきで受け付ける。希望日の7日前必着。庭園のみの拝観は受け付けず、写経などへの参加が必要になる。
(1)JR京都駅からバスで約60分(2)3000円(3)075・391・3631(西芳寺)
まるで緑の海原(石川県小松市)
杉の美林に囲まれた苔むす庭園や神社、古民家など里山地区の自然や生活文化について、ガイドから解説を受けながら鑑賞する。「杉木立の林床を覆う苔のマットは素晴らしいの一語」(西村さん)。「敷地中心の築山に向かって苔が盛り上がっていく様は、まるで緑の海原のよう」(藤井さん)。「苔ゼミなどの催しが充実している」(大石善隆さん)が、立ち入り区域は限定されている。
(1)JR小松・加賀温泉駅から車で約20分(2)500円(環境整備協力金)(3)090・7083・6969
司馬文学にも 悠久の庭(福井県勝山市)
白山の登拝口にあり、「北陸の苔寺」の別名も。司馬遼太郎も苔のすばらしさを「街道をゆく」で書き記した。「うっそうと茂る木々、歴史を感じる石畳の参道は苔に覆われ、悠久の苔環境を保っている」(道盛さん)。「ここまで美しいヒノキゴケの庭は類をみない」(大石さん)との評価も。アクセスはよくないが「それだけに静寂の中でじっくりと落ち着いて楽しめる」(藤井さん)。
(1)えちぜん鉄道勝山駅からバスで約15分(2)50円(旧玄成院庭園)(3)0779・88・8117(勝山市観光政策課)
東アジア最大級の群生(群馬県中之条町)
廃坑になった鉄鉱石の露天掘り跡に弱酸性の環境を好むチャツボミゴケが自生。「東アジア最大級の群生が圧巻。バスツアーがあり、老若男女で楽しめる」(左古さん)。「深い緑と半球状に盛り上がった群生が美しい」(上野さん)。
(1)JR長野原草津口駅からタクシー(2)500円(3)0279・95・5111(チャツボミゴケ公園)
お地蔵さんもかわいい古刹(京都市)
京都市北部、大原の里にある古刹。苔庭にはそっと首をかしげるお地蔵さんが6体あり、「苔に埋もれる姿がとてもかわいらしい。境内を覆うウマスギゴケ、ヒノキゴケなどのなめらかな苔地も必見」(大石さん)。秋は紅葉が美しい。
(1)JR京都駅からバスで約60分(2)700円(3)075・744・2531(三千院)
モダンアートな幾何学模様(京都市)
国指定名勝の本坊庭園は造園家の重森三玲の手による庭で、苔と敷石が描く幾何学的な市松模様が美しい。「古寺でありながら、まるでモダンアートを見ているような、新鮮な刺激を受ける」(藤井さん)。
(1)JR奈良線・京阪本線東福寺駅から徒歩10分(2)400円(本坊庭園)(3)075・561・0087(東福寺)
変化に富んだ原生林(奈良県上北山村など)
山全体が特別天然記念物に指定され、東大台地区に苔探勝路がある。原生林は「屋久島に相当する雨量があり、変化に富んだ苔の生育を見られる」(道盛さん)。「森林生態系の中での苔の役割が観察しやすい」(上野さん)。
(1)近鉄大和上市駅からバスで約120分(3)07468・3・0312(大台ケ原ビジターセンター)
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ランキングの見方 数字は選者の評価を点数に換算した総得点。名称、所在地。(1)交通手段(2)大人1人の料金(3)問い合わせ先電話番号。写真は1、3位矢後衛、2位吉川秀樹、4位(C)GYRO PHOTOGRAPHY/SEBUN PHOTO/amanaimages、5位苔の里、6位勝山市、7位中之条町観光協会、8位三千院、9位東福寺、10位photo by Amegraphy / PHOTOHITO
調査の方法 日本蘚苔(せんたい)類学会が選定する「日本の貴重なコケの森」や、苔で有名な庭園を持つ寺社・施設を対象に22カ所をリストアップ。専門家にベスト10を選んでもらい、点数を付けて集計した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。
青木之(クラブツーリズム広報担当)▽上野健(「苔をみる旅」案内人)▽上山美穂(苔ファン)▽大石善隆(福井県立大学講師)▽大橋弘(写真家)▽左古文男(「コケを見に行こう!」著者)▽武藤重信(庭園管理士)▽西村直樹(岡山理科大学教授)▽樋口正信(国立科学博物館植物研究部長)▽藤井久子(「コケ図鑑」著者)▽道盛正樹(大阪自然史センター副理事長)
[NIKKEIプラス1 2017年6月17日付]
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