流してダッシュ 1人流しそうめんはスポーツだぁ!?
暑くなると、涼しげな流しそうめんが食べたくなる。店で食べるのでは面白くない。自分で湯がいた麺を竹の樋(とい)に流し、すくって食べる。そんな「1人流しそうめん」に挑戦した。
まずは、準備。流しそうめん用の樋は、自ら竹を切り出して作るのか。それとも市販されているか。流しそうめんの普及に取り組む「世界流しそうめん協会」(京都府井手町)に聞いてみた。
「1人流しそうめんですか。面白そうですね。何ならこちらで、樋など必要な用具を用意しますよ」と同協会会長の上田悠貴さん。言葉に甘え、協会本部近くの民家の庭を借りて、1人流しそうめんに挑戦した。
5月下旬の昼時、快晴。気温は30度近いが湿度はさほど高くなく、風が心地よい。絶好の流しそうめん日和だ。
竹を縦に割ってつくった長さ3メートルの樋を2つ、樋を支える竹の三脚を3組用意。これで6メートルの樋をつくる。
さらに樋を流れてくる水を受けるザルとバケツを下流に置く。最後に水道から引いた水を流すホースを樋につないだ。セッティングには5分もかからない。そうめんは150グラム分を用意した。
さあ、始めるぞ。左手にめんつゆを入れた青竹のコップ、右手に箸を持ち、上流に立つ。そばに置いてあるザルから、湯がいておいたそうめんをすくい、樋に流す。
すぐさま、下流に向かってダッシュ。何しろ樋は6メートルなので、10秒もしないうちに、そうめんは下流に到達してしまう。水がザルに落ちる手前で、すくう体制を整える。箸を持つ手に力が入る。
「ありゃ」。非情にもそうめんが箸をくぐり抜けていく。「それじゃだめですよ」。離れたところで様子を見ていた上田さんが、慌てて近づいてきた。
「箸を樋に付けて待つ。角度は45度。そうめんが流れてきたら、そこからすくい上げればいいんです」。教えてもらった通りにやってみると、すくうことができた。
1人流しそうめんは、「単純作業」の繰り返しだ。ひたすらそうめんを流し、すくって、食べる。だが、これが予想外に楽しい。
行ったり来たりするので、一種のスポーツ感覚を味わえる。音も心地よい。竹の樋を流れる水がせせらぎのようで、ザルに水が落ちる音が何とも涼しげだ。そうめんも、普段より、おいしく感じる。あっという間に1時間がすぎた。
「そうめん流しって、楽しいですね」と思わず上田さんに言うと、「ちょっと待ってください」と意外な反応。「いまやっているのは『流しそうめん』で、『そうめん流し』は、また別物なんです」。エエッ。
流しそうめんが登場したのは昭和30年代の初め。上田さんによると、発祥の地は宮崎県高千穂町とされる。暑い夏の野良仕事の際に野外でそうめんをゆで、高千穂峡の冷水と竹を利用して食べたのが広まったという。
一方、そうめん流しは宮崎県や鹿児島県など九州を中心に定着した食べ方。円形の容器などに人工的に水流をつくり、流したそうめんを箸ですくい、めんつゆにつけて食べる。回転式の流しそうめんだ。
流しそうめんが全国に広がったのは、エンターテインメントの要素があり、キャンプやバーベキュー、地域のイベントや学校行事で楽しむのに向いているためのようだ。最近は外国人観光客にも人気がある。用意、片付けが簡単なのも流しそうめんの利点。
家族や友人などとワイワイやるのもいいが、体験してみて、「おひとり様」でも十分、楽しめることがわかった。そうめんだけでなく、「うどんや中華めんなどを流す人も増えている」(上田さん)といい、好みで、ほかの「麺流し」を味わってみてもいいかもしれない。
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樋や三脚のセット 市販
自宅の庭やベランダなどで1人流しそうめんを楽しむには、樋や三脚などが必要。インターネットなどで市販のセットを購入するのが手っ取り早い。世界流しそうめん協会が販売する「流しそうめんセット」は、天然竹の樋(長さ3メートル)と竹の三脚3組のセットで6800円。
スペースの制約から「樋の長さ3メートルのものを購入する人が多い」(上田同協会会長)が、迫力が増す6メートルの樋で楽しむには、広いキャンプ場や公園などにセットを持ち込めばいい。
ただ、水道を使うため、管理者の許可が必要で、認めない場合もあるので注意しよう。周囲の視線が気になるという人は、自宅でやるのが無難だ。
(大橋正也)
[NIKKEIプラス1 2017年6月10日付]
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