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売れる営業 私の秘密

「サッポロ黒」九州で57%増 理系営業の口説き術 サッポロビール 藤波佑輔さん

2017/5/31付

 2016年、九州でサッポロビールの主力ブランド「黒ラベル」の缶の販売量が15年比で57%増え、同ブランド全体も約2割押し上げた。端緒は大手ディスカウント店が棚に並べたこと。九州本部(福岡市)の藤波佑輔さん(32)がこじ開けた。理系出身で、データをもとにしたタイムリーな提案が受け入れられている。

 「御社は6缶パックよりもケース販売で差をつけた方がいいかと」。佐賀市にあるダイレックスのオフィスで仕入れ担当と交渉する藤波さんの声が響く。

 ダイレックスは九州が地盤の大手ディスカウント店で、担当の藤波さんは週に1度、訪れる。POS(販売時点情報管理)のデータから他のチェーンに比べてケースで買う客が多い傾向が見つかって提案した。

■商談希望は夕方

 小売店は毎週、メーカーの営業担当と商談する。藤波さんが希望するのは午後4~5時。「後ろの時間を気にせずに十分に話せるから」だ。他のメーカーとの商談が長引いて待つことになっても「資料づくりや他の社員へのあいさつができる」と涼しい顔だ。

 ダイレックスは藤波さんが担当になった3年前から黒ラベルの扱いを増やした。当初の350ミリリットル缶から500ミリリットル缶に品ぞろえを広げ、16年からは全店で売る定番に昇格した。

 ディスカウント店だけに「価格面での交渉は常に厳しい」が、西永賢治部長(50)は「藤波君が提案を断られて帰ってくるのは見たことがない」と話す。

 販売データから他のチェーンに比べてお盆の時期に売り上げが多いことが見えてくると、その時期の納入価格を抑えるなどの工夫をする。藤波さんは大学の理学部を卒業してビールの営業になった変わり種。西永部長によると「数字の羅列からも傾向がつかめる」。

 九州は全国平均よりもアサヒビールとキリンビールのシェアが高い。藤波さんは入社以来、九州本部でスーパーなどへの営業を担当していた。「高級ビールの『エビス』の販売を優先し、黒ラベルの提案は遠慮気味だった」

 九州の消費者はディスカウント店でビールを多く買い、メーカーの販路でも位置づけが高いが、九州の外も含めて220あるダイレックスの店で黒ラベルを扱っていたのは40店ほど。全国で40年間売れ続けているだけに「手に取ってもらえれば」との自信はあった。

■「5倍にします」

 機会はほどなく巡ってきた。東京都内の取引先を回ることになったダイレックスの新穂芳昌会長(62)に同行。黒ラベルを扱っている福岡空港内のすし店に新穂氏を誘い、グラス1杯だけ飲んでもらった。東京・恵比寿のサッポロの本社で黒ラベルを説明した後に「この商品、うちでどれくらい売っているんだ」と聞かれ、「まだ定番ではありませんが、御社での売り上げを前年の5倍にする自信があります」と即答した。

 会長のお墨付きを得て店舗への訪問を増やした。狙いは「エンド」と呼ぶ陳列棚の端だ。棚に向かって右端は店に入ってきた客から見ると手前になり、店頭販促(POP)などを付ければ目に入りやすい。

 商談のない日は店に直行して売り場づくりを助ける。開店や改装などには九州以外にも出張して立ち会い、店長らの信頼を得て売り場づくりに関われる関係を作る。「小売店の棚は消費者と商品の最大の接点。そこで目に触れて本当のブランドになる」と語る。

 ダイレックスで指名買いをする消費者が増えたことが波及し、九州の他の小売りチェーンからも売りたいとの要望が来るようになり、取り扱う店が増えた。「棚を広告に使わせてもらう」戦略が実を結んでいる。

(朝田賢治)

ふじなみ・ゆうすけ
 2007年金沢大理卒。09年サッポロビールに入社し、九州本部配属。マーケティング部を経て、09年秋から流通第1営業部でスーパーやディスカウントストアへの営業を担当。14年春からダイレックスを担当。16年と17年に社員表彰を受ける。三重県出身。

[日経産業新聞2017年5月31日付]

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