アート&レビュー

映画レビュー

『オリーブの樹は呼んでいる』 家族の絆と社会の実相

2017/5/19付 日本経済新聞 夕刊

 古代から地中海沿岸ではオリーブの樹は太陽の樹とされ、豊穣(ほうじょう)や勝利、平和の象徴と見なされてきた。スペインも例外ではなく、樹齢2千年に及ぶオリーブの樹も珍しくないという。そんなオリーブの古木が売り払われたことから引き起こされる騒動を、ユーモアを交えて描いている。

東京・銀座のシネスイッチ銀座で5月20日公開(C)Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Pelicula A.I.E

 スペインのバレンシアにある田舎町。アルマ(アンナ・カスティーリョ)は養鶏場で働く20歳の娘。実家はオリーブ農園を営むが、父親は農園を厭(いと)い、樹齢2千年のオリーブの樹を売り払ってしまう。だが、その時からアルマの祖父は口を利かなくなる。

 スペインはオリーブオイルの生産で有名だが、グローバル経済を背景に小規模経営は厳しく、農園を継ぐことも難しいという。アルマの実家もそんな農園の1つであり、父親と祖父の対立は、オリーブの樹に象徴される伝統の継承の問題でもある。

 大好きな祖父を元気にするため、アルマはオリーブの樹を取り戻すという無謀な計画を立て、叔父のアーティチョークと同僚のラファを何とか丸め込んで計画に巻き込む。そしてオリーブの樹を買ったドイツのデュッセルドルフにある会社を目指して、3人はラファが借り出したトラックで出発する。

 後半は3人のドイツへの旅が描かれるが、物語を牽引(けんいん)するのはアルマの奔放なキャラクター。幼い頃に祖父と遊んだオリーブの樹の思い出を胸に抱く彼女の熱い思いから荒唐無稽な計画が展開されるが、そんなアルマ役を無名のカスティーリョが好演している。

 イシアル・ボジャイン監督は、ビクトル・エリセ監督作品などに主演した元女優。ケン・ローチ監督作品で知られる夫で脚本家のポール・ラヴァーティと共にオリーブの古木をめぐる家族の絆と現代社会の実相を明るく洒脱(しゃだつ)に描き出した。1時間39分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2017年5月19日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

アート&レビュー