くらし&ハウス

暮らしの知恵

判別わずか0.1秒 生体認証、SF映画の生活現実に

NIKKEIプラス1

2017/5/13付 NIKKEIプラス1

 顔や指紋など人体の特徴を機械を使って読み取り、本人かどうかを確認する生体認証。近未来を描いた映画でたびたび登場し、人々をワクワクさせてきた最新技術は、日々の暮らしでも認証スピードを上げている。

 パソコンやタブレット端末に内蔵されたカメラに顔を向けるだけで、ロック画面が解除される。そんなシステムがあると聞き、4月中旬、開発元の日立INSソフトウェア(横浜市)を訪ねた。

 「登録画面で顔写真を撮りましょう」。技術者の磯川伸一さん(44)に促され、パソコンに向かい笑顔を作る。顔の輪郭や目鼻の位置・形などから識別する「顔認証」のための登録作業だ。

 顔写真は5枚登録できる。オフィスや屋外などの照明や光の加減が、本人かどうかを判断するのに影響するためだという。やがて額からあご先の顔が画面に現れ登録された。その後、マウスを動かしパソコン画面に顔を向けると、あっという間にロック解除された。認証スピードは0.1~0.2秒とか。

 パスワードの変更とその管理に悩まされてきた54歳の記者にとって待望のシステムだ。ここで好奇心がむくむくと湧いた。「夕方になるとヒゲがポツポツと生えてくるが、認証に支障は?」。磯川さんに水を向けると「その程度ならOK。ムシャムシャと生えたら、その顔を登録して」と応じてくれた。

 機密の多い軍事関連や警察、官公庁の入退室で導入された生体認証。少なく見積もっても40年の歴史があるという。今ではスマートフォン(スマホ)のロック解除で、指紋や、黒目の周りにあり瞳孔の開き具合を調節するドーナツ状の虹彩の模様が本人確認に使われるなど、日常にどんどん溶け込んでいる。

 「私が2004年、大阪のマンションに導入した生体認証は、米国映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』より早かった」。静脈認証技術の開発会社、バイオニクス(大阪市)の須下幸三社長(47)は胸を張る。1989年に日本公開された映画は2015年の米国を描いた。公開当時、近未来の15年では家に入るのを指紋認証で行っていた。だが、鍵のいらない住宅は現実世界の04年に実現していたわけだ。

 須下社長に現在、大阪市内で工事中の賃貸マンションを見せてもらった。各戸の入り口のドア横に認証装置がある。人さし指を装置に入れると、ドアがカチャッと音を立てて開いた。装置上部から近赤外線が出て指を透過、指の中にある静脈の形成具合を映し出し、下部にある小型カメラがとらえ、登録していたものと同じかどうか判断する。

 専有部分だけでなく1階の共用フロアにも装置がある。間取りは2LDKで計12戸、家賃は月額15万円ほどの予定だ。「子どもやお年寄りから、鍵のいらない生活は便利だという声を寄せられる」。須下社長はこう話す。

 セキュリティーの強化で存在感を増す生体認証だが、リスクはある。指紋認証は解像度の向上したカメラの普及により、インターネットの交流サイトでピースをした画像の指紋の偽造が可能に。指紋認証が進むネットバンキングは要注意だ。虹彩認証は目に直接、近赤外線を当てることから、人体への影響を懸念する医師も少なからずいる。

 注文住宅のヤマダ・エスバイエルホームで生体認証を研究する宮原年明社長(55)は、生体認証は試行錯誤しながら暮らしにより浸透するとみる。「本人確認だけでなく、暮らしを彩ったり守ったりすることがそう遠くない日にやってくる」と予測する。

 子どもが定時に帰宅しない場合、認証されていないという情報を親にメールで知らせる見守りサービスは有望。電車やバスの運賃決済も夢物語ではないそうだ。これらはSF映画でも描かれていない。

◇  ◇  ◇

■みずほ銀、目の「虹彩」導入

 みずほ銀行は富士通と共同で2017年秋をメドに、顧客がスマホでインターネットバンキングを利用する際に指紋、虹彩、顔のいずれかのデータで本人確認するサービスを始める。虹彩は生体認証の中でも本人を識別する精度が高く盗用が難しいとされる。

 みずほ銀のスマホ専用アプリ「みずほダイレクトアプリ」は現在、「お客様番号」とパスワードの入力が必要。これを生体情報だけでログインを可能にする。富士通の認証サービスを導入する計画だ。富士通製のスマホは虹彩認証。登録の際、スマホを目の高さに上げ顔を近づけると目のアップ画面に変わり=写真、虹彩の模様が撮影される。みずほ銀のアプリも同様の手続きになるとみられる。

(保田井建)

[NIKKEIプラス1 2017年5月13日付]

くらし&ハウス