通勤中の「つり革体操」 体幹強化・脇腹引き締めに
薄着の夏がやってくる。フィットネスの時間がなかなか取れない人、朝晩に気分転換したい人におすすめなのが、通勤電車で立ったまま取り組める動きだ。わずかな運動に見えて実は効果抜群。毎日の移動時間を使って、締まった身体と体幹の強化を目指そう。
今回は電車のつり革を活用し、重力と自分の体重による負荷で身体と向き合ってみよう。
まずは両手でつり革につかまって、体をほんの少し前傾する動作(写真説明1参照)。腹部と背面部を刺激して強化できる。腹部の腹直筋を特に意識したい。おへそを胃の方向へ引き上げるイメージだ。前傾時にかかとを上げると、負荷がやや強くなる。
大きく息を吸い込み、細く長く吐き出すようにしながら、5~10秒ほど姿勢をキープする。3回ほど繰り返す。このトレーニングは「アイソメトリック・コントラクション」と呼ばれ、筋肉が長さを変えずに力を発揮している状態を作る。腹横筋や横隔膜など体の奥の「インナーマッスル」も刺激できる。
同じポーズから今度は体を後ろに傾ける(同2)。背面部にかかる負荷がやや強くなる。つま先を上げるとお尻が出て身体が「くの字」になってしまう人は、つま先を上げずに取り組もう。
写真1と2を続けると、姿勢を保つ脊柱起立筋や、背骨の内側から仙骨の内側まで付着している「多裂筋」が強化できる。多裂筋は腹横筋と同時に動くと、垂直方向に身体を持ち上げる働きを持つ。ボディーシェイプとシャープな姿勢づくりが期待できる。
夏に露出の機会が増える腕や胸部に効くのが同3と4だ。
3の「片手バタフライ」は主に大胸筋を、4の「二の腕シェイプ」は上腕三頭筋を刺激する。いずれも手のひらを前に向けてつり革を握る。可能ならつり革と手、肘が一直線になる位置に立とう。手首を曲げずに動かすと効果が上がる。
体幹部の強化に加え、ウエスト周辺を引き締め、こわばったインナーマッスルを動かして血流を促進するのが「骨盤ツイスト」だ(同5)。腰は振らないで、膝と一緒に骨盤を片側ずつ前に動かす。長時間座り続けた後の腰痛の予防にも役立ちそうだ。
いずれも動きは小さく、電車内のわずかな空間でも目立たずに取り組める。そのとき、身体を感じながら動かすのが非常に重要だ。
脳から脊髄や末梢(まっしょう)神経に指令が伝わって、筋肉が収縮する。筋や腱(けん)にある感覚受容器は、身体のどの部位に、どのように力が入っているかといった筋肉の状態を、脊髄や脳に伝えている。このやり取りを想像しながら体を動かせば、姿勢や動作に敏感になれる。
あわせて重要なのが、動きを呼吸と合わせることだ。呼気に合わせて力を入れる。できるだけ大きく吸い込み、細く長く吐く。満員電車で身動きが取れないときは、呼吸の繰り返しだけでもよい。できるだけ腹圧を高めよう。
「スマホを見る通勤」から「身体と向き合う通勤」へ。身体を感じることは、脳の活性化にもつながる。仕事前後のギアチェンジにもなるだろう。
(早稲田大学スポーツ科学学術院 荒木邦子)
[NIKKEIプラス1 2017年5月6日付]
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