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移転延期に伴う課題は築地市場の関係者に重くのしかかる(1月5日、東京都中央区の築地市場)

移転延期に伴う課題は築地市場の関係者に重くのしかかる(1月5日、東京都中央区の築地市場)

築地市場から豊洲市場への移転延期が大きなニュースになっているわ。でも、そもそも卸売市場の役割や現状ってどうなっているのかな。もし築地も豊洲も使えなくなったら、どんな影響が出るの。

築地市場(東京・中央)の移転問題で話題の卸売市場について、川本淳子さん(52)と松浦昌美さん(49)が志田富雄編集委員に話を聞いた。

――そもそも卸売市場の役割って何ですか。

「全国の産地から農産物や水産物を集め、それを分配する物流拠点の役割と、セリなどを通じて公正な値段を付けるという主に2つの役割があります。マグロなどの水産物では輸入品も多く扱います。こうした食品を調達した卸売業者が、仲卸業者や小売り、食品企業など資格をもつ業者を相手にセリをします。さらに仲卸業者がセリで買い付けた食品を、小売店や外食店が仕入れるという流れです」

「セリには多くの買い手が参加するので、相場観が共有されます。不漁の時は値段が上がるし、消費が落ちると値段が下がります。取引を通じ需要と供給のバランスを反映した価格がつくわけです」

――卸売市場というと築地が有名ですが全国にいくつもあるのですか。

「中央卸売市場という自治体が開設・運営する卸売市場は全国に64カ所あります。そのほかに、民間企業も運営できる地方卸売市場と呼ばれる市場が全国におよそ1100カ所あります」

「東京都が開設した中央卸売市場は11カ所あり、それぞれ花や果物、野菜、食肉などを取り扱っています。築地市場は魚というイメージが強いですが、実は野菜や果物も取り扱います。野菜や花で有名な大田市場(大田区)でも魚を扱っています。全国から品物が集まるだけでなく、他の卸売市場に転送されます。ここでの値付けが全国各地の価格形成にも大きな役割を果たしています」

――豊洲市場(江東区)へ移転できなくなり、築地も老朽化で使えなくなったら、どうなるのですか。

「昨年11月に予定していた豊洲への移転がストップしたため、東京都は築地を補修をしながら稼働させています。ただ、80年も前に建てられたため老朽化が顕著です。移転をやめ、築地を建て替える案が出ていますが、過去にも市場の営業を続けながら建て替え工事をしようとして、結局、頓挫しました」

「仮に豊洲、築地とも使えなくなってしまった場合には大田など他の中央卸売市場に機能を移すことも考えられます。ただ、設備の増強が必要となるでしょう」

――ネットの活用などで卸売市場の役割を代替できないのですか。

「実は、卸売市場の存在意義はどんどん低下しています。産地と小売りが直接取引したり、ネット通販で生産者が消費者に直接、品物を届けたりするなど、卸売市場を通さない流通が増えています。水産物では1998年度に重量ベースで全体の71.6%が卸売市場を経由していましたが、2013年度には54.1%まで減っています」

「取扱量が減り、卸売業者や仲卸業者の経営は厳しくなっています。中央卸売市場では98年度に260社あった卸売業者が15年度には166社にまで減りました。卸売市場は卸売業者や仲卸業者からの使用料収入で成り立っているので、市場自体の経営も苦しくなっています。全国の中央卸売市場は98年度の87カ所から15年度には64カ所に、地方卸売市場は98年度の1465カ所から14年度は1092カ所まで減っています」

「それでも、まだ市場の数は多すぎます。戦後の食料不足や交通網が未整備だった時代の構造から抜け出せていないのです。もっと中核となる市場に集約していく必要があります。集約で卸や仲卸1社あたりの取扱量が増えます。合理化を進めることで流通コストが低減する効果も期待できます。結果として生産者の手取りが増えたり、食卓に上る食品が安くなったりするでしょう。流通コストを下げ、産地や買い手にとって使い勝手のいい市場に変えなければ、立派な建物を造っても卸売市場はもういらないという事態になりかねません」

ちょっとウンチク

統制の名残、コメは扱わず

日本の食卓に欠かせない生鮮食品なのに、卸売市場が扱わないものにコメがある。コメの流通は食糧不足の時代に生産から流通、価格まで政府が厳しく統制し、市場経済の外に置かれていたためだ。

そのコメが市場に半世紀ぶりに復活したのは1990年10月。当時の「自主流通米」を入札で取引するコメ市場が動き出した。しかし、市場価格への転換には農業協同組合組織が抵抗した。農協に課していた取引市場への上場義務が廃止されると取引量は急減。政府は指標価格形成の役割を担うとは言えないとして2011年3月に市場を廃止した。

コメには現在、大阪堂島商品取引所の先物市場もあるが、取引は低迷している。

(編集委員 志田富雄)

今回のニッキィ


川本 淳子さん 茶葉販売会社勤務。子どもの影響もあり広島東洋カープのファンに。年10回以上は球場で観戦する。「大きな声で声援するのが、ストレス発散になっています」
松浦 昌美さん 広告関連企業勤務。中学生の頃からロック音楽にはまり、年50回はコンサート会場に足を運ぶ。「その場でしか味わえないライブ独特の雰囲気がたまりません」
[日本経済新聞夕刊2017年5月1日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は5月15日の予定です。

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