「かかりつけ医」選びのコツ 専門性より総合力
体の不調や健康問題を気軽に相談できるかかりつけ医(ホームドクター)がいれば安心だ。ただ医療機関の看板には数多くの診療科が掲げられ、ホームページにも医師の肩書や経歴がずらりと並ぶものの、何を決め手に選んだらいいのか決めかねるのが現状だ。新しい生活の地で悩むこともある。自分に合うかかりつけ医を見つけるためには、どうすればいいのだろうか。
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かかりつけ医は、紹介状が必要な大病院でなく、身近な診療所や病院で健康のことを何でも相談でき、必要な時には専門の医療機関へ紹介してくれる医師だ。
ただ医療機関の看板は「内科・小児科・皮膚科」など複数の診療科が掲げられていることが多い。どう判断すればいいのか。
「多くは得意な診療科を最初に挙げている」と教えてくれるのは湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)の小林修三副院長だ。「循環器内科・消化器内科」と掲げていれば、循環器系を専門としているとみられるという。主に高血圧や心臓など循環器系に不安がある人はこうした医療機関が選択肢の一つとなる。
診療所は病院の専門科勤務を経て開業する医師も多い。ホームページには専門医などの資格のほか、「医学博士」や「元大学教授」などの肩書や経歴が並んでいることもある。在宅医療の診療所を複数開設している医療法人アスムス理事長の太田秀樹医師は「専門性の高さは、かかりつけ医としての能力と同じではない」と指摘する。
長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏院長も「かかりつけ医は、専門性の高い医師や地域の看護、介護の専門職と連携できることが重要」という。ホームページなどで連携先として、専門科のある病院や診療所のほか、訪問看護、訪問介護の施設名などを具体的に挙げているならば安心できそうだ。
「通いやすさ」も重要な要素となる。近くても車で通う医療機関だと、運転できる配偶者が先立った場合、通院できなくなることもある。長尾院長は「高齢者は体が弱くなることも想定して、歩いて通える距離にあることも判断材料」と指摘している。
女性にとっては「産婦人科」はかかりつけ医の有力な選択肢となる。
三重大病院(津市)の産婦人科の池田智明教授は「産婦人科は"女性の総合診療科"。思春期から成熟期、老年期まで一生をサポートできる」と説明する。
長く付き合うことになるかかりつけ医とは相性も大切だ。太田医師は「予防接種や健康診断などで受診し、質問に対してどのように答えてくれるのか試してみては」と提案する。
例えば禁煙の相談をした場合、すぐに薬物療法の説明をする医師もいる。体の不調や健康問題は食事や運動、喫煙、飲酒など生活習慣が大きく影響する。太田医師は「生活習慣を変えられないならば、その原因は何かをしっかり考えてくれる医師がかかりつけ医には望ましい」と話す。
患者からの相談を受けたり、患者と医療者のコミュニケーション講座などを開いたりしているNPO法人「ささえあい医療人権センターCOML(コムル)」(大阪市)の山口育子理事長も自ら探す姿勢の大切さを強調する。
どんなかかりつけ医を望むかは一人ひとり異なる。イメージが漠然としていると、悩んでしまう。山口理事長は「『丁寧に対応してくれる』『治療のマイナス面も説明する』など、何を望むのか具体的な基準をあらかじめ決めて受診すること」を勧める。
事前に電話して応対がよかった医療機関を受診し、「診察した医師が基準に合っていればすぐに決めればいい」という。かかりつけ医という"人生の伴走者"を見つけるコツの一つだ。
40代以下5割「いない」
日本医師会総合政策研究機構が2014年に成人約1100人に面接調査したところ、「かかりつけ医がいる」と答えたのは53.7%。年代別では70歳以上では8割、50、60代で6割だったが、40代以下では半数以下だった。だが40代以下も「いないが、いる方がよい」を加えると5割を超え、かかりつけ医が見つけにくい状況が浮かぶ。
背景には「探し方が分からない」だけでなく、疾患や臓器別の専門医の育成が中心だったため、幅広い病気の知識のほか、健康問題などにも対応できる医師が多くない事情もある。
高齢者が増加する中、受け入れに限界のある病院や介護施設だけでなく、在宅でも対応できる医師が求められる。日本医師会は16年4月から「かかりつけ医機能研修制度」を導入。認知症を含め高齢者特有の疾患にも対応できる医師の育成を急いでいる。
(編集委員 木村彰)
[日本経済新聞夕刊2017年4月27日付]
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