『PARKS パークス』 初々しい語り、公園の魅力
「プロローグ」から幕をあける。状況や設定をかいつまんで述べる説明ではない。ここでは、まだ何もはじまっていない。
主役の吉永純(橋本愛)が、自転車で公園のなかを走りまわり、画面外(こころの内)からの声でしゃべる。「百年まえに生まれたこの公園をかたるなら桜の季節ははずせない。だから桜を自転車で駆けぬけるシーンからこのものがたりをスタートさせたい。そしてできれば最後も桜のシーンで終わらせたい、なんて思っている。というか、まだはじまってもいない、けど」
と、キャメラ(わたしたち観客)に視線を送る純。「ものがたりは、もうすぐはじまる……」
かたりはじめることを、ためらう映画。まるで映画自身が自意識をもった生きものであるかのようなナイーヴさだ。
このういういしいかたりくちで、卒業をひかえてなお単位が一つとれていない女子大生、純と、亡父の昔の恋についてしらべたくてこの地を訪れた高校生ハル(永野芽郁(めい))、その昔の恋人の孫トキオ(染谷将太)が出会い、1960年代の恋人たちがオープン・リールのテープにのこした歌を、完成させようとするものがたりを、かたっていく。
一定の方向性をもつストーリーをかたろうとするとういういしさは減少しがちだし、逆に、はなしの詰めの甘さが不満になったりもするのだが、それでも3人が彷徨する舞台となる公園の空間が、柔軟さを補給してくれる。
この5月で百周年となる井の頭公園が、この映画のもう一人の主人公である。
こんなに広大なところだったのか。公園のなかを列車が走りぬけているかのような景観には魅了された。
監督・脚本・編集は「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」(2011年)の瀬田なつき。大きな柱である音楽はトクマルシューゴ。1時間58分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2017年4月21日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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