スマホで上手に家族ムービー 秘訣は「4秒長く撮る」
公園の砂場で遊ぶ3歳の息子を撮って、再生すると第1の欠点は臨場感がないこと。風の音ばかりで、黙って遊ぶ姿は無声映画のようだ。まずは音を意識してみよう。
「何をしてるんだい?」と息子に声をかけながらスマホを向けると「ここは海。今から魚を捕りに行くんだよ」と返ってきた。さすが我が子、いいコメントだ。でもスマホのマイクは遠くの音を拾うには適していない。動画の息子の声は途切れがち。質問する自分の声ばかり大きい。接近しての撮影ならいいのだが。
次なる作戦は視線の高さの工夫だ。テレビ番組ではよく子どもを低い位置から撮っている。自分は立ったままでの撮影だ。そこでジャングルジムの下にもぐりこみ、よじ登る息子を撮った。小さな遊具でも3歳の息子にとっては大きな山だ。動画には「ハアハア」と息切れする様子が映る。いいぞ。ただ近くから撮りすぎて、息子が何に登っているのか分からない。
ビデオ映像に関する本をいくつも出している阿部信行さんに助言を求めた。「子どもがどんな場所で、何をしているのか撮ったうえで、近づくといいですよ」。なるほど同じ場所で撮らなくていいのか。公園の桜の木、近所の家、遊具や時計を撮ったあとで息子に近づくと、季節や時間などの情報が映り込み、格段に臨場感が増した。
第2の欠点は見ていて船酔いしそうな手ぶれへの対策だ。最初に試したのがペットボトルを2本、袋に入れておもりにして腕を固定する方法。だが、すぐに腕の筋肉がぷるぷると震え始めた。風が吹くと重みが増す。これでは逆効果だ。
固定するなら三脚はどうか。この作戦で手ぶれはほぼゼロになった。ところが砂場で遊んでいたはずの息子が飽きたのか、突然ダダダダとパンダの乗り物に駆けていく。三脚のスマホは誰もいない砂場を映したまま。突発の動きは、なかなか追い切れない。
ここでプロの阿部さんとの会話で思い出した。「自撮り棒って多機能ですよ。100円ショップで売っているものでいい」。1メートル近くまで伸びる自撮り棒は多いが、揺れを最小限に抑えるには短めで使う。脇の下を締めて握ると固定感は抜群。下に手を伸ばせば、しゃがまなくても撮影姿勢は楽だ。突発でパンダ遊具に向かう息子に対応できる。
第3の欠点はシャッターチャンスならぬ、いい表情チャンスを何度も逃していること。これはどう解決しよう。
スマホには人の顔を認識して、動いてもピントを合わせ続ける機能がある。この機能に頼っても子どもは動きが速く、そもそも画面から外れる。映像ディレクターの冨永誠氏は「スマホの画面を見続けること。素人は画面の外に視線が行って被写体がはみ出てしまいがち」と話す。この心得を刻みつけると、砂場遊びで会話しながらでも、ジャングルジムへ近づきながらでも、画面に息子が収まっている時間が大幅に伸びた。
そして冨永さんの最後の奥の手「自分で思ったより、あと4秒、長く撮ろう」。今回、ジャングルジムで父子の会話と、ぐっと力を込めて登るいい構図の動画が撮れたと思ったが、あと4秒ルールを心がけてみた。すると、登り切った後にふーっと息を吐き、力が抜けて満足そうに笑う息子の表情が映り込んだ。効果てきめんだ。
取材のために自撮り棒を買い込んだときに妻は「また余計なもの買ってきて」と怒っていたのに、出来上がった動画を見せたら「私にも撮り方を詳しく教えて」と興味津々な様子だった。
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アプリ使って簡単編集
映像を見栄えのいい作品にするには、複数の動画を組み合わせる編集作業は欠かせない。映像ディレクターの冨永さんによると「同じ場面を集中力が途切れずに見続けられるのは10秒程度」という。
選択した動画から名場面を抜き出し、それをつなぎ合わせてBGMを付ける作業までを自動的にやってくれるスマホ用アプリはいくつもある。いったん完成した後もストーリーに合わせて個別の動画の順番やBGMを入れ替えることが可能だ。
主役が映っていなくても、周辺にある場面を別途撮っておき、挿入する方法が効果的だ。例えば運動会なら子どもが走る様子に加えて、校門やグラウンドの情景を挟み込んで1本に合わせると、映像の厚みが増す。
(小山隆史)
[NIKKEIプラス1 2017年4月22日付]
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