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顧客の会議 普通に出席

雪印メグミルクの首都圏中央支店(東京・新宿)に勤める山田祐実さん(28)は食品スーパーに乳製品を営業している。素人でも作れるメニューを毎月2つ考え、動画の解説付きで提案する。作りやすさと分かりやすさがスーパーの来店客にも受け、チーズでは1カ月の売り上げが前年同月の2倍になった商品もある。この実績が評価され、顧客の社内会議に当たり前のように出席させてもらえるようになった。

定番商品の「スライスチーズ」を電子レンジで1分半加熱する。熱いうちにふたをするように紙コップに載せ、中央部を押し込んで形を整える。くぼんだ部分にポテトサラダなどの具を載せれば、丸ごと食べられるスライスチーズ製の「カップ」の出来上がりだ。

山田さんが今月、担当する関東の大手スーパーに提案したメニューだ。「こんにちは。今月はスライスチーズカップです」。スーパーの本社ではこんなあいさつで始まる「クッキング動画」も各店の売り場担当者らに見せる。動画は自社の調理室などでスマートフォンで撮影し、「お花見シーズンにお客さんに提案してください」と用途を説明するのも忘れない。

売り場に並べてもらうように写真付きの自作の店頭販促(POP)も持って行き、各店で試食販売してもらう。山田さんが扱う自社の商品は約70。通常は会社が考えた公式メニューやPOPを売り込むが、自作なら担当するスーパーが力を入れようとしている商品を臨機応変に売り込める。

◇     ◇

入社以来、家庭用乳製品の営業をしてきた。2年前に今の顧客の担当になった。前任は40代のベテランの男性社員で、若い女性が担当するのは異例。「プレッシャーはあった。今になって、相手から『こんな若い人に変わって不安だった』と打ち明けられたこともある」と漏らす。

男性の社員に負けないようにと、売り場の設営などの力仕事にも率先して参加したが、自社の営業職は皆やっていること。「自分の色を出したい」。前の担当の時から取り組んでいた独自のメニュー提案に力を入れた。以前は提案は2カ月に1回だったが、月2回にし、動画を付けるようにした。これまでの1年半で36のメニューを考案した。

顧客が社内で開く売り場責任者の会議に出ることをもくろんでいた。別の商品分野の話も聞け、販促のヒントになるからだ。簡単ではないが、メニューと動画を持ち込み続けると、1年前から出席させてもらえるようになった。

◇     ◇

昨年4月、オランダ発祥の柔らかい「カッテージチーズ」の商品を白あえのように混ぜた「枝豆桜海老あえ」などを考え、会議で食べてもらった。売り場責任者が店に持ち帰って来店客に試食してもらうと、その商品の売り上げは前年同月の2倍になった。

会社の公式メニューは管理栄養士らが考えた凝ったものが多い。最初は公式メニューのような手の込んだ料理を考えていたが、ある仕入れ担当者に「もっと簡単でお客さんに響きやすいものの方がいいよ」と言われた。山田さんは自宅ではほとんど料理をしない。「こんな私でも簡単に作れるんです」とのメッセージを込める。今や「山田さんでも作れるメニューだからいいね」と言われる。

料理の経験に乏しい分、自社の社員や顧客との会話がよくヒントになる。「雪印北海道100さけるチーズ」を短冊状に切ってしゃぶしゃぶにする「さけチーしゃぶしゃぶ」は顧客から「さけるチーズを新しい食感で楽しめないか」と聞かれて思いついた。

一店一店の売り場の担当者と会うのが大事と考える。2年をかけてチェーンの全域でチーズの基礎知識の説明や試食を交えたセミナーを開いた。「営業は人と人とのやりとり。この人と会いたいと思わせるのが大事」

(服部良祐)

 やまだ・ゆみ 2011年雪印メグミルク入社。首都圏中央支店の販売促進一課に配属され、小売業にチーズやマーガリンなどの乳製品を販売。15年から乳食品二課。約25年続けている一輪車に乗ることが趣味。神奈川県出身。
[日経産業新聞2017年4月19日付]

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