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春の日焼け・発疹、実は難病? うつや腎炎の恐れも

2017/4/17付 日本経済新聞 朝刊

 若い女性に多い難病「全身性エリテマトーデス(SLE)」は春に症状が出て気付く場合が多い。ひどい日焼けや発熱、皮膚の発疹などの初期症状だけでなく、腎障害やうつのような精神疾患まで起こる見分けにくい疾病だ。近年登場した新薬が、皮膚症状の改善や治療の副作用による不妊の回避など患者の悩みを抑えることに役立っている。専門医でなければ診断が難しいのが課題だ。

荒川さんは全身の症状を抑えるため、13種類の薬を服用する

 都内の大学で働く荒川洋理子さん(37)は、以前から顔が赤くなりやすかった。18歳のときに関節が強く痛むようになり、近くの病院を受診した。症状は特に改善せず数カ月後に別の病院で詳しい検査を受け、SLEと診断された。昨夏、髪が抜けるようになったが新薬「ヒドロキシクロロキン(商品名・プラケニル)」を使うと治まった。

 「日光をたくさん浴びるようになる春頃から発症する人が多い」と日本リウマチ学会理事長の山本一彦・東京大学教授は指摘する。暖かい季節になり、アウトドアや運動会などで肌を出したとき、SLEの患者はひどい日焼けや水ぶくれなどを起こす場合がある。春は皮膚が日光にまだ慣れていないため、夏より弱い紫外線でも発症するわけだ。

 SLEは体を守る免疫が過剰に働いて起こる自己免疫疾患の一つだ。細菌やウイルスなどの外敵を倒す免疫が自分まで攻撃するようになり、全身の臓器で炎症を引き起こす。国内患者は約7万人。女性が約9割で、20~40代に発症することが多いのが特徴だ。

■数カ月続く微熱

 症状は幅広い。目に付くのは皮膚症状だ。代表的なのは日光を浴びた際の発疹や水ぶくれ、顔のほおにできる蝶(ちょう)が羽をひろげたような発疹「蝶形紅斑」だ。「SLE患者では約7割で起こる」という報告もある。

 長期間の発熱もSLE患者によくある初期症状の一つだ。セ氏37度台の微熱が数カ月続く。ときには同38度の高熱になることもあるという。倦怠(けんたい)感や疲労感も伴う。

 臓器にも障害がでる。腎臓の障害は放置すると重篤になり、治療が長期にわたることがある。健康診断の尿検査などで発覚する。皮膚と臓器の重症度は直接関係しておらず、皮膚症状がおさまっても臓器の状態には注意する。

 中枢神経をおかす場合もある。うつや統合失調症に似た症状になることや、認知症のように忘れっぽくなったり、怒りっぽくなったりする場合がある。「性格が変わった」と周囲に言われることがあるほどだ。

 これらの症状は全て起こるわけではない。悪化させないために日光を避けた方がいい。ストレスや過労も大敵だ。

 治療はステロイドの投与が基本だ。体全体の免疫を抑える。副作用で感染症にかかりやすくなるため、症状が落ち着いたら少しずつ量を減らす。さらに症状によって薬を追加する。

■不妊の副作用なし

 皮膚症状の治療では2015年に承認された「ヒドロキシクロロキン」が貢献した。山本教授は「皮膚症状の特効薬」と言う。1~2カ月間投与すると改善するほどだという。顔の発疹などを抑えられるのは心理面でも大きな効果だ。

 もとはマラリアの治療薬として開発されていたが、視覚障害の副作用が問題となり使われなくなった。それを副作用の起こりにくい構造に改良したのが、今の薬。そのため定期的な目の検査が必要だ。

 16年に承認された免疫抑制剤「ミコフェノール酸モフェチル(商品名・セルセプト)」も女性患者の負担を減らした。免疫抑制剤は腎炎の治療などに使うが、以前のものは不妊になる副作用があった。

 順天堂大学医学部付属順天堂越谷病院の高崎芳成院長は「以前は若い女性の約9割が投与を拒否した」と振り返る。新薬は不妊の副作用がない。だが妊娠中に使った例で副作用による先天異常が報告されている。

 妊娠には注意がいる。ホルモンのバランスが崩れて症状が悪化する場合があるからだ。最低で半年、できれば1年以上、症状が落ち着いているといった条件を満たさないと勧めないと専門医は言う。出産を望む人は早期から専門医との相談が必要だ。

 2つの新薬は欧米では以前から使われていた。高崎院長は「やっと欧米並みの治療になった。だが既存薬の効かない患者もいる」と言う。別の新薬も国内で臨床試験が進んでいる。

 SLEの課題は早期の診断だ。国内では米リウマチ学会の基準をもとに全身の症状や血液検査などから診断している。ただ実際には、かかりつけ医でSLEに気付くのは難しい。いくつも病院に行って、ようやく診断されるケースも珍しくない。山本教授は「普及活動を通してかかりつけ医や社会にも病気を知ってもらうことが重要だ」と指摘する。

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■患者の会発足 治療と仕事の両立めざす

 全身性エリテマトーデス(SLE)の患者は、40年前には発症から5年で半数が亡くなっていた。薬の進歩などで今では生存率は9割以上になった。患者にとって、治療と仕事の両立が重要な課題となっている。

 SLEなどの患者会「全国膠原病友の会」は2016年、体調に合わせた働き方を患者とともに考える就労部会を立ち上げた。森幸子代表理事は「患者の中には見た目の症状があまりなく、職場などで理解を得にくいことがある」と話す。日光を避けるため屋外で活動できないことも仕事を制限する。「怠け病」と誤解を受けることもあるという。社会の理解を促す必要がある。

 全国膠原病友の会は年に1度、全国の患者や医師などを集める討論会を開いている。森代表理事は「同じ病気を抱える人が今後の生活を一緒に考える場になってほしい」と期待する。

(遠藤智之)

[日本経済新聞朝刊2017年4月17日付]

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