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ニッキィの大疑問

全農なぜ改革必要に? 高コスト是正、直販に乗り出す

2017/4/10付 日本経済新聞 夕刊

自民党の農林部会長を務めている小泉進次郎氏(2016年11月25日、自民党本部)

 全国農業協同組合連合会(JA全農)が事業の改革案を発表したことが新聞で大きく取り上げられていたわ。なぜ、改革が必要になったんだろう。具体的にどんなことするのかな。

 全農の改革について、小川いづみさん(40)と宮原千枝さん(47)が吉田忠則編集委員に話を聞いた。

■全農ってどんな仕事をしているのですか。

 「約650ある地域農協の全国組織で『農業商社』ともいわれています。農家がつくった農作物を市場や卸、スーパーなどに売り、農家には肥料や農薬、農業機械などを販売し、年間売上高は5兆円近くに上ります。日本の農家のほとんどは規模が小さい兼業農家で、農協の組合員です。農協の全国組織である全農は日本の農業に非常に大きな影響を与える存在です」

■なぜ改革が必要なのですか。

 「日本の農業は厳しい状況が続いています。農家の平均年齢は67歳近くまで高齢化し、携わる人はどんどん減っています。2015年の農産物の市場規模はピークの1984年から2割強減っています。コメ消費の減少や日本の少子高齢化、農産物の輸入増などの影響です」

 「日本の農薬や肥料やコンバイン、トラクターといった農業機械が国際的にみて高いことも、以前から問題になっていました。農業が苦境にあり、しかも農業のコストがなかなか下がらない。そこで日本の農業に幅広く関わっている全農が改革の対象になったのです」

 「そんななか、15年10月に小泉進次郎氏が自民党の農林部会長に就任しました。小泉氏と連携する政府の規制改革推進会議の部会は16年11月、全農に対し、農薬、肥料、農業機械などの購買事業を1年以内に大幅に縮小することなどを提案しました。組織の存続にかかわる案に農協グループは猛反発しました。本来、民間団体の全農に組織や事業の見直しを強制することはできないので、全農が自ら改革案をまとめることで決着しました。それが17年3月末に発表されたのです」

■全農はどんな改革案をまとめたのですか。

 「これまでは農家から農産物を預かり、販売を代行する委託方式が中心でした。このやり方だと、全農は手数料を受け取ることができますが、安値でしか売れなかったときのコスト割れなどのリスクは農家が負います。そこで今後は全農が農産物を買い取り、リスクを負って売る方式に軸足を移します」

 「農産物を卸会社に売ったらおしまいという販売方法も見直します。代わりに増やすのが、外食チェーンやスーパーなどに直接売る方式です。売り先がはっきりするので、消費者の需要がつかみやすくなります。コメの場合、直接販売を9割にする目標を掲げました。全農は回転ずしチェーン最大手『あきんどスシロー』の親会社に出資することを決めましたが、これは直接販売の強化を象徴する例です」

 「肥料の値段を下げる努力もします。主要な肥料はいま400銘柄ありますが、10程度に絞り込みます。韓国などと比べて種類が多いため、肥料の生産が非効率になってきたからです。農業機械は新品ではなく中古を買い、農家同士で共同利用するよう促します。全農が自主的に決めた改革ではありますが、強い発信力のある小泉氏が登場し、背中を押した面も大きいでしょう」

■私たちの暮らしにはどんな影響がありそうですか。

 「全農の改革が直接、私たちの食生活に影響を与えるわけではありません。ただ、日本の農業は疲弊し続け、耕作放棄地と呼ばれる荒れた田畑がどんどん増えています。日本の食の基盤が脅かされているのです」

 「農家の多くは農作物をつくる専門家ではあっても、売るプロではありません。ほとんどの農家はこれまで通り、地域の農協と全国組織の全農に販売を任せるでしょう。全農の改革が進めば、農家の経営ももう少し安定して、耕作放棄地が増加するのを防げるかもしれません。それが日本人の食生活の安定につながることに期待したいですね」

■ちょっとウンチク
農協の基盤強化も背景に
 零細な農家がリスクを負う販売方法ができた背景には、歴史的な経緯がある。1950年には農協は1万3000もあり、規模が小さく財務基盤も弱かった。配給制が中心の食料の供給方法を改めるとき、一番心配されたのが農協の破綻だった。販売方法の見直しが可能になったのは、農協の合併が進んで体力が増したという事情がある。
 食生活の中心が家庭の食卓から中・外食に移ったことも影響した。外食チェーンや総菜業者は仕入れ値の安さだけでなく、量と値段の安定を重視する。相場が不安定な市場流通ではなく、産地とじかに結びつく直接取引を求める理由は彼らの側にもある。時間をかけて進んだ様々な変化が、全農を改革へと動かした。
(編集委員 吉田忠則)

■今回のニッキィ
小川 いづみさん メーカー勤務。加圧トレーニングを始めて6年。週1回はジムに通う。「持ち上げるバーベルが重くなっていくなど目に見える形で成果がみえるのが楽しいです」
宮原 千枝さん 情報通信企業勤務。書道は師範の免許を持つ腕前。今は7月の展覧会に向け作品を制作中だ。「集中して書いているので気付くと部屋中、墨だらけになっています」

[日本経済新聞夕刊2017年4月10日付]

 「ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は4月24日の予定です。

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