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元祖「中学生棋士」で元名人 加藤九段が引退へ

2017/4/4付 日本経済新聞 夕刊

加藤九段は引退が決まった翌日の対局で最高齢勝利記録を更新した(1月20日、東京都渋谷区の将棋会館)

 将棋の元祖「中学生棋士」で、元名人の加藤一二三(ひふみ)・九段(77)。残る対局をすべて終えると引退となる。明るく前向きでファンに愛された現役最高齢棋士が60年余の現役生活を振り返った。

 ――名人経験者で初の陥落による引退となる。

 「引退が決まる直前2局はホテルに缶詰めになって研究に没頭した。勝って残留するつもりで最善を尽くした。やり残したことはないので悔いはない。『お疲れさま』と声をかけられるが、まだ公式戦の対局は残っている。勝てば、次の対局もある。1局でも多く指せるように全力投球したい」

 「高齢になり、成績が下がれば自ら引退する棋士もいるが、私は戦う意欲がなくならなかった。負けは増えたが、なすすべなく負けるのではなく、大半が惜敗。幸い健康で、まだやれると思い、今日まできた」

■最高齢勝利を更新

 ――引退が決まった翌日の対局で勝ち、77歳0カ月の最高齢勝利を記録した。

 「うれしかった。先行きに明るい希望を持てた。次戦で現名人の佐藤天彦さん(29)とも戦えた。全盛期の羽生善治さん(王座・王位・棋聖、46)が相手でもそうだが、プロになってから対局前に勝つ自信がなかったことは一度もない」

 ――14歳7カ月でプロ棋士になると毎年昇段し、神武以来の天才とよばれた。

 「20歳で名人に初挑戦したが、大山康晴さん(故人、十五世名人)に敗れた。その後、十段戦(竜王戦の前身)などでタイトルを獲得したが、名人にはなれず、行き詰まった。対局中、次の手を決断できず、自分を見失いそうになった」

 「そこで1970年、キリスト教の教会で洗礼を受けると、吹っ切ることができた。精いっぱい一生懸命に手を読んで、決断すればいい。それまでクラシックや西洋美術、文学に親しんでいたので、さほどキリスト教に違和感はなかった」

■中原さんから学ぶ

 ――82年、中原誠名誉王座(十六世名人、69)を破り、名人になった。

 「中原さんは最も影響を受けた棋士で一時期、20連敗した相手だ。切れ味鋭く、美しく巧妙な将棋。私は鈍刀のような棋風。中原さんの弱点を突くのではなく、長所に学ぼうと鍛錬を重ね、勝てるようになった」

 「私はいつの日か名人になると確信していた。最終局では中原さんが簡単な手順を見送って、私に勝利が転がり込んできた。詰みが見えた瞬間、『あっ、そうか』と声に出した。万感の思いがあった」

 ――将棋界には若い才能も出現している。

 「藤井聡太さん(四段、14)が昨年秋、私の最年少記録を62年ぶりに塗り替えた。この朗報は心から喜んだ。実力の世界なので、若い人材が出てくるのは素晴らしいこと。私は若い頃、勉強をほとんどしなかったが、実際に対戦して彼はとても研究熱心だと感じた」

 ――最近はテレビ出演も多く、街で「ひふみん」と声をかけられることも。

 「この知名度を生かして、将棋の裾野を広げたい。例えば女性教室。3手詰め、6枚落ちといった初心者向けの講座にも取り組み、普及活動を通じて、将棋界に恩返ししたい」

 ▼将棋界の引退規定
 名人戦の予選に当たる順位戦の一番下のC級2組から陥落すると年齢によって引退となる。タイトル経験者や順位戦最上位のA級経験者は、負けが込んで順位戦のクラスが下がると、自ら引退したり、順位戦を指さない「フリークラス」に転じたりすることが多い。

(聞き手は文化部 山川公生)

[日本経済新聞夕刊2017年4月4日付]

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