群馬・大泉に本場ブラジル料理 肉も果実も豪快串刺し
群馬県大泉町は4万人あまりの町民の約10分の1を日系ブラジル人が占める。国内有数のブラジル人コミュニティーがある町の中心部には、日系ブラジル人経営のレストランや商店が散在し、ブラジルの味や雰囲気を楽しめる。東京から電車で2時間ほど、気軽に異文化体験の旅に出た。
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ブラジル料理と聞いて、すぐに思い出すのはシュラスコだろう。鉄の串に肉を刺し、炭火でじっくり焼き上げたものを客の目の前まで運び、大きなナイフで好きなだけ切り分ける。
「ブラジル人が週末にパーティーを開けば必ずシュラスコになる」。レストラン、ロデイオグリルを経営する宮崎マルコ・アントニオさん(52)は話す。もともとは牧場で働く男たちの食文化だったというが、今では「どの家庭でもシュラスコを楽しんでいる」(宮崎さん)という。
同店のシュラスコでまず登場するのはカラブレーザ(ブラジル風ソーセージ)と鶏の心臓(コラッソン)。日本風に言えばハツで焼鳥屋さんでおなじみだが、塩のほかにコショウを少々振っただけでなぜか外国風の味わいになる。
続いて牛バラ肉。5キログラムほどの塊から1センチほどの厚さに切り分けていただく。見た目は硬そうだがナイフを入れてみると軟らかい。「3時間ほどじっくり焼いて軟らかくする」(調理を担当するハガ・ジュリオさん、55)のだという。
メインは1番人気のピカーニャ(牛肉のイチボ)。1キロほどの肉の塊を4つ、串に刺した状態で供される。それぞれの塊から1切れずつ切ってもらい、いただく。味付けは粗塩だけで、野性味のあるローストビーフといった趣だ。
「大きな肉の塊を目の当たりにすると、お客さんから歓声があがります」と宮崎さん。さらに肉が出た後、締めくくりはシナモンを振りかけた焼きパイナップル。適度な甘みと酸味が体に心地よい。
4月からは肉の種類を半分にしたミニコースも始めた。「ボリュームがあり過ぎると敬遠していたお客さんにも来てもらいたい」と宮崎さんは話す。
工業が盛んな大泉町に日系ブラジル人が多いのは、不足する労働力を補おうと1990年に入国管理法が改正され、労働ビザが取得しやすくなったのがきっかけだ。「ブラジルタウン」は東武鉄道西小泉駅周辺に広がる。レストランにはシュラスコのほか、家庭的な味が売り物の店もある。
「ブラジル料理の基本はフェジョン(豆の煮込み)とご飯。日本で言えば味噌汁とご飯のようなもので、これさえあればOK」
レストラン、カサ・ブランカ店長の塚本エジソン・ジュニオールさん(25)は話す。皿の上にご飯を盛り、その上にカレーのような感じでフェジョンをかけるのが基本のスタイルだ。
フェジョンに使うのはカリオカ豆という、小豆より少し大きな豆。豆は一晩水に付けた後、圧力釜で煮る。ニンニクとタマネギをいためたものを加え、塩で味を調える。
同店はブラジル料理バイキングを提供しているが、ご飯にフェジョン、それに好みの肉料理を添えて食べる人が多い。人気があるのは牛ハラミ肉の煮込み。ジャガイモやニンジンと一緒にトマトソースで軟らかくなるまで煮込んでおり、どこか肉じゃがに似ている。「バイキングに並ぶのは、どれもブラジルの家庭でよく食べているものばかり」(塚本さん)だ。肉料理とご飯を盛り合わせ、それにフェジョンを添えたセットメニューもある。
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日系ブラジル人は群馬県東部一帯や埼玉県にも多く住むが、ブラジル系の商店がこれだけ集積しているのは大泉町だけ。そのため、町外から買い物や食事に来る人も多いという。レストランが食品や雑貨を売る商店を併設していたり、同じ建物に入っていたりする例も多い。巨大な肉の塊や煮込みに使う豆など、この町ならではの商品をおみやげにするのも楽しい。
大泉町観光協会の斉藤恵梨子さん(38)は町内のブラジルレストランは「100軒ぐらいあるのでは」と話す。それぞれ特徴や得意料理があるので、事前に問い合わせるといいだろう。
世界各地から多くの移民を受け入れたブラジルは文化のるつぼ。料理も南欧やアフリカばかりでなく、さまざまな国や地域の影響を受けている。
ひき肉を小麦粉を練った生地で包み、揚げたパステルは、おやつや軽食に人気。ルーツは中華料理の春巻きといわれる。
ご飯と肉料理、それにフェジョンを添えたテークアウトもよく売られているが、名前は「BENTO」。日本語の弁当と全く同じで、おかずの中身こそ違え日系人が持ち込んだ食文化だ。
(前橋支局長 塚本直樹)
[日本経済新聞夕刊2017年4月4日付]
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