精神疾患の親を持つ子供へ 「一人じゃない」声かけを
病気の影響、きちんと説明
配偶者や子育て中の近所の人が、うつ病やアルコール依存症などの精神疾患を抱えていたら……。子供がつらい思いをしていないか、気がかりになるだろう。何かしてあげたい、でもどうすれば。「あなたは一人じゃないよ」。まずは積極的に話しかけたい。
「お母さんが泣いている。どうしよう。僕のせいかも」「前はいつも笑ってくれたのに、僕のこと嫌いになっちゃったのかな」
精神疾患で最も多いうつ病。発症すれば会話が減ってふさぎ込み、家事に手が付かなくなる場合もある。親のそんな姿を子供は「自分のせい」と考えてしまいがちだ。心配で親を一人にさせまいと、子供が遊びや学習の機会を減らしてしまう可能性もある。
統合失調症の症状は陽性と陰性に大別される。陰性症状は意欲が失われ、引きこもりがちになり、うつ病同様、家事や親の慰めなどを子供が担うケースがある。妄想や幻覚に悩まされる陽性症状なら、子供に外出させなくしてしまうこともある。「近くの人から悪口を言われている」といった考えに陥り、子供の行動を制限してしまうためだ。
アルコール依存症は飲酒によって子供に対しても怒鳴ったり、ひどい場合は暴力を振るったりする人がいる。しかしその記憶がない人は多く、子供は普段の親とのギャップに悩まされる。依存症が進行し、肝機能障害での入院や休職などに至れば子供を心配させてしまう。
どのタイプの精神疾患でも、「いい子にしていればお父さんやお母さんは元気になるからね」と子供の行動と病状を結びつけて話さないようにしたい。むしろ病気であることに加え、それは「あなたが悪いわけではない」としっかり伝えることが大事だ。
精神疾患を抱える親の子供を支援するNPO法人ぷるすあるは(さいたま市)の代表理事で精神保健指定医の北野陽子さんは「病状から起きている行動と分かれば、対処を工夫できる。病気を抱えながらの子育てのサポートと、子供の支援をそれぞれ進める必要がある」と指摘する。
子供のケアを担うのはまずは家族だろうが、精神疾患の人を抱えていればその悩みや面倒見で頭がまわらないかもしれない。そんなとき、近所の大人や学校の先生が話しかけてあげたい。子供が自分から悩みを打ち明けることは少ない。様子がいつもと違うと感じたら、「心配なことはない?」「いつでも話してくれていいよ」とメッセージを伝え続けよう。
子供の努力を褒めることも効果的だ。妹や弟の面倒を見てくれたら「ありがとう」、勉強に励んでいたら「頑張ったね」と素直に声をかける。子供は敏感で「かわいそう」などと強く同情されると、かえって悲しみや苦しみが増してしまうこともある。乗り越える力を信じてあげたい。学校や地域には相談室などもある。橋渡しをするのも一つの方法だ。
ぷるすあるははうつ病や統合失調症など疾患別に、子供の立場にたって病気についてまとめた「家族のこころの病気を子どもに伝える絵本」(ゆまに書房)を計4冊出版している。分かりやすく症状などを記述し、大人がどう接すべきかなども解説している。子供と一緒にこうした本を読むと理解が深まるだろう。
支援に力を入れる自治体もある。さいたま市のこころの健康センターは、うつ病や依存症などの親を持つ小中学生向けのプログラムを年2回、開催している。同センターや児童相談所の職員が「一人じゃないんだよ」などと語りかけ、病気についても説明する。こうした自治体などの取り組みを子供に紹介するのもいい。
症状などは正確な情報に基づき伝えることを心がけよう。インターネット上には不正確で、偏見や悪意に満ちた情報も多い。厚生労働省などの公的サイトのほか、ぷるすあるはの「子ども情報ステーション」を活用したい。
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患者は390万人 6年前より2割増
厚生労働省の2014年の患者調査によると、認知症を含む精神疾患を抱える患者は全国で約392万人と推計されている。患者は増加傾向にあり、6年前の08年に比べ、約2割増えた。内訳はうつ病などの気分障害が最も多く、112万人。統合失調症が2番目で77万人に上る。
全体の精神疾患の患者を年齢別にみると、「子育て世代」ともいえる25~54歳が約4割を占める。アルコール依存症は医療機関にかかっていない人も多く、厚労省研究班が2013年に調査したところ、約109万人が依存症と考えられるという。
(吉田三輪)
[日本経済新聞夕刊2017年3月30日付]
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