長岡野菜、新潟の冬に彩り スープにピザに新感覚
京野菜、加賀野菜など地域の名前を冠した野菜は全国各地にある。昔からある食材で地域の文化との関わり合いも深い。その中で新潟県長岡市で主に栽培される長岡野菜は、不足しがちな冬の貴重な栄養源としての役割も果たしてきた。卸売市場や生産者などがブランド化に取り組むなか、近年は若い世代が長岡野菜への関心を深めている。
JR長岡駅から自動車で30分ほど走ると山古志地域にたどり着く。その虫亀地区で地元のお母さんたちが切り盛りしているのが農家レストラン「山古志ごっつぉ多菜田(たなだ)」だ。
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ごっつぉとは地元の言葉でごちそうという意味。多菜田は地元で収穫したコメや野菜など自然そのままの食材を使った料理を提供している。定食を注文すると、小鉢が4つついてくる。中身は季節や食材の入荷状況によって異なるが、運が良ければ郷土料理の煮菜が出されるかもしれない。
煮菜は体菜(たいな)の漬物と、潰した大豆と油揚げを組み合わせたもの。口に含むと、控えめな塩味が素材の持つ本来の味わいを引き出しているようだ。体菜は全国各地で栽培されていたが、現在は青物が不足する雪国の保存食として長岡市のほかごく一部地域での生産にとどまるという。
別の小鉢には糸うりの漬物が入っていた。全国的には9月以降にしっかりと糸ができてから食用にするが、長岡では6月下旬から8月上旬までの未熟果を浅漬けにして食べる。漬物などとして貯蔵し、昔から冬の食卓にも並んできた。
多菜田は2004年の中越地震から復興した元気な姿を発信しようと開業した。五十嵐なつ子代表(65)は「料理のコンセプトは山古志の家庭料理。新潟県外からやってきた人にも、古くからある長岡の味に触れてほしい」と話す。
長岡野菜は信濃川がつくった肥沃な土壌や夏の高温多湿、冬の豪雪などの気候風土のもとで育まれた。卸売市場や生産者などで構成する長岡野菜ブランド協会(長岡市)が昔から生産されていたり、独特の食べ方がなされたりしている素材として体菜や糸うりなど16品目を認定。夏や秋に旬を迎えるものが多い。
「大量生産した画一的なものばかりが流通し、昔ながらの野菜が市場から消えてしまう」。長岡中央青果社長を務めていた鈴木圭介会長(73)が同会を設立したきっかけを話す。同じ危機感を持っていた農家と話し合い、長岡の野菜のブランド化に取り組みだした。
長岡野菜を使った料理教室の開催や食味会、東京都内の青果市場での売り込みなどを実施して認知度が高まってきた。鈴木会長は「長岡野菜の巾着なすを地元の料亭が出すようになるなど、一定の引き合いが出てきた」と話す。
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若い世代も注目する。「おれっちの炙(あぶり)家ちぃぼう」は地場産食材にこだわりながら、創作料理に挑戦して幅広い世代の支持を集めている。長岡市栃尾地域の油揚げ「栃尾の油揚げ」と煮菜を使った料理を注文した。栃尾の油揚げは通常の油揚げより3倍ほど大きい。それを側面から切って煮菜やチーズなどを載せてオーブンで焼く。
見た目はピザに似ている。ほのかな甘みと、煮菜の食感が刺激となり舌を楽しませる。鈴木将オーナーシェフ(37)は「ワインにもあうし、子どもの食事にもなる」と話す。
栃尾の油揚げを食べるだけでなく、時間あれば栃尾地域に足を運んでみるのもいい。まちなかの一角にある「フードダイニング トチオノバル」(長岡市)のタンタンスープパスタでは、雪下ネギやアスパラなど地元で取れた野菜をまとめて食べられる。長岡市出身の酒井一禎オーナーシェフ(43)は「埋もれがちな地元の優れた食材を知ってもらいたい」と話す。
長岡野菜をお土産品として買ってみるのもいい。JR長岡駅すぐのホテルニューオータニ長岡(長岡市)では食用菊「おもいのほか」と佐渡産のギンザケを使った菊鮭(サケ)寿しを取り扱っている。同ホテルの大沢和人料理長(59)らが考案した。華やかな赤紫色の食用菊が、まもなく訪れる春を感じさせてくれる。
新潟県には食用菊を食べる習慣がある。長岡野菜ブランド協会(長岡市)によると中国では古代より菊を延命長寿の花として珍重し、酒や漢方薬として飲用していたという。日本へは奈良時代に輸入されたといわれるが、いつから長岡で食用にしたか定かではない。名称は新潟市を中心とした下越地域では「かきのもと」、長岡市を中心とした中越地域では「おもいのほか」という。おもいのほかの由来は不明だが、食べてみたら「おもいのほか、おいしかったから」との説もある。
(長岡支局長 皆上晃一)
[日本経済新聞夕刊2017年3月21日付]
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