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映画『サラエヴォの銃声』 ヨーロッパの現状を暗示

2017/3/17付 日本経済新聞 夕刊

 第1次世界大戦の引き金となったサラエヴォ事件。オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子フランツ・フェルディナント大公夫妻がセルビア系青年、ガブリロ・プリンツィプに暗殺された出来事である。

東京・新宿の新宿シネマカリテで25日公開(C)Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016

 この事件の百周年記念として当地で上演された戯曲の映画化だが、この原作を「鉄くず拾いの物語」で知られるボスニア・ヘルツェゴビナ出身のダニス・タノビィッチ監督は、老舗ホテルを舞台に繰り広げられる群像劇に仕立て上げた。

 舞台はサラエヴォにあるホテル・ヨーロッパ。ホテルは事件の百周年記念式典の準備に追われていたが、経営難に陥っている。支配人は銀行との交渉に余念がなく、従業員たちは賃金未払いからストを予定。

 フロントで働くラミヤ(スネジャナ・ヴィドヴィッチ)は、支配人の信頼が厚く何事も冷静にこなす女性だが、リネン室で働く母親のスト参加が心配だった。支配人は地下のカジノを経営するヤクザを使ってストを中止させようとする。

 そんな中、VIPのフランス人(ジャック・ウェバー)が到着するが、その部屋の様子を警備員が監視。一方、屋上ではテレビの特別番組の取材が行われているが、そこに百年前の暗殺犯と同姓同名の青年が現れ、女性ジャーナリストと論争を始めるが……。

 屋上からエントランス、地下のリネン室やカジノまで、物語はホテル内に集う様々な人々の錯綜(さくそう)する利害や思いを交錯させながら展開する。そんな中、ラミヤがホテル内を歩き回る姿をカメラが滑るように追っていく長回し撮影は、人物と空間を巧みにつなげて緊張を生み出して面白い。

 百年前のサラエヴォ事件を背景に、内戦後のボスニア・ヘルツェゴビナの現代社会を縮図として描き出しながらも、ホテルの名前が象徴するようにヨーロッパの現状も暗示している。1時間25分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2017年3月17日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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