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映画『未来よ こんにちは』 女性監督成熟、女優名演

2017/3/17付 日本経済新聞 夕刊

 フランスの女性監督ミア・ハンセン=ラブの最新作。まだ30代半ばと若いが、本作は長編5作目で、映画作家として目覚ましい成熟を見せた。ベルリン映画祭で監督賞を受賞。

東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほかで25日公開(C)2016 CG Cinema. Arte France Cinema. DetailFilm. Rhone-Alpes Cinema

 ヒロインのナタリー(イザベル・ユペール)はパリの高校の哲学教師。一人暮らしの母親が認知症の徴候(ちょうこう)を見せ、夜中も授業中もかまわず電話でナタリーを呼びだし、狂言自殺に及ぶ。

 そんななか、同じ哲学教師の夫が、恋人ができたといって家を出てしまう。

 ナタリーの唯一の慰めは、愛(まな)弟子で哲学教師になった魅力的なファビアンだった。今は教師をやめ、アルプスで仲間と自給自足に近い共同生活をしている。

 母親が亡くなったのち、ナタリーはファビアンと彼の自由な生活に引かれて、アルプスに向かう……。

 ハンセン=ラブは、これまで若者たちの恋愛を主な主題としてきたが、本作では一転して、人生の終わりに近づく中年女性を主人公にした。夫や子供たちとの心のすれ違い、老いた母親の介護、教師生活の細々とした問題、若い男性への心のときめきなど、誰の人生にもありうる出来事をじつに説得力豊かに描きだしている。堂に入った演出に、ツボを心得た物語の運び。映画監督としてひと皮むけた巧(うま)さである。

 そして、主人公に扮(ふん)したイザベル・ユペールの名演がこの映画を支えるもう一つの柱だ。いまやどんな種類の映画に出ても完璧な存在感を発揮するユペールは、ジャンヌ・モロー、カトリーヌ・ドヌーヴ以降、フランス最高の女優になったといって過言ではない。

 もう一人、老母を演じるエディット・スコブも素晴らしい。かつて怪奇映画の名作『顔のない眼』で美少女を演じた彼女が、元モデルで長身痩躯(そうく)のエキセントリックな母親を演じて、一瞬ユペールをかすませる。見逃せないしぶい配役だ。1時間42分。

★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2017年3月17日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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