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北欧ミステリー根付く 犯罪実話・型破り警察官…

2017/3/14付 日本経済新聞 夕刊

早川書房が手掛ける北欧ミステリーのフェア(東京都狛江市の啓文堂書店狛江店)

 スウェーデン、ノルウェーなどの作家による北欧ミステリーが相次ぎ翻訳され、人気が定着してきた。実際の事件に基づく犯罪小説、重層的な構造の警察小説など多様な作品が並ぶ。

 早川書房は現在、ハヤカワ文庫の北欧ミステリー作品を集めたフェアを全国の書店で開いている。スウェーデンの作家アンデシュ・ルースルンドのデビュー作でストックホルム市警の「グレーンス警部」シリーズ第1作となる「制裁」(ベリエ・ヘルストレムとの共著、ヘレンハルメ美穂訳)の刊行に合わせたものだ。

■重層的な構成

 ルースルンドの作品としては、1990年代初頭にあった連続強盗事件に基づく犯罪小説「熊と踊れ」(ステファン・トゥンベリとの共著、ヘレンハルメ美穂・羽根由訳)が昨年刊行され、「このミステリーがすごい! 2017年版」(宝島社)の海外編第1位になるなど話題となった。

 ノルウェーの作家ジョー・ネスボの「刑事ハリー・ホーレ」シリーズの第5作「悪魔の星」(戸田裕之訳、集英社文庫)も刊行されたばかり。オスロ警察の型破りな警部の人物像と謎解きを含めた重層的な構成を魅力とするシリーズだ。

 このほか、昨年4月に発表された第7回翻訳ミステリー大賞でも、アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの「声」(柳沢由実子訳、東京創元社)が北欧ミステリーとして初めて選ばれている。レイキャビク警察犯罪捜査官エーレンデュルが、サンタクロースの姿で殺されたドアマンの生涯に向き合う。

 スウェーデンの「刑事マルティン・ベック」など社会派の警察小説の伝統で知られる北欧ミステリー。これだけ多く翻訳されるようになったのは、スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる世界的なベストセラー「ミレニアム」シリーズが日本でも大ヒットして以降だ。

■スケール大きい

 「『ミレニアム』を文庫化した11年より前はあまりなかった北欧ミステリーだが、それ以降は年5、6冊ずつ刊行している。スケールの大きさが特徴だ」と早川書房の根本佳祐氏。今年7月にスウェーデンの短編ミステリーの選集、12月には、ラーソン亡き後に「ミレニアム」を引き継いだダヴィド・ラーゲルクランツによる続編第2弾(第5巻)の発売を予定する。

 「キャラクターが際立つ警察官と社会のひずみを反映した犯罪を描くのが北欧ミステリー。警察小説の王道との印象がある。一方でネスボ作品は米国の犯罪小説の要素があるし、『熊と踊れ』は実録小説の趣だ」。ミステリーに詳しい評論家の杉江松恋氏はこう述べており、北欧ミステリーの幅は広がっている。

◇     ◇

■「悪魔の星」のネスボ氏に聞く ノルウェーの風土が影響

 「悪魔の星」刊行を機に来日したジョー・ネスボ(56)に、シリーズ誕生のきっかけなどを聞いた。

 ――ハリー・ホーレ警部はどう生まれたのか。

 「株式仲買人の仕事をしながらバンド活動をしていた1997年。ライブのために各地を飛び回る忙しい日々のさなか、『ちょっと待って』と周囲に言ってオーストラリアへ休暇に出かけた。行きの飛行機で生まれたのがハリー。米ハードボイルド小説の探偵など4つほどの要素が組み合わさってできた」

 ――今作は五芒星(ごぼうせい)のダイヤモンドを共通の遺留品とする連続殺人を扱う。

 「4つか5つ描きたいシーンがあり、バラバラなものをパズルを組み合わせるようにして、大きな物語にする。読者をいかに導くかというナビゲーションにも気を付けている」

 ――北欧ミステリーが世界的に注目を集めている。

 「ノルウェーの風土が自作に影響を与えているとは思う。私が北欧ミステリーの波に入っているかは分からないが、誰かがドアを開けてくれたところで書いていられるのはラッキーだ」

(編集委員 中野稔)

[日本経済新聞夕刊2017年3月14日付]

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