いざ提案、技術陣味方に 半導体装置、客の要望上回れ
東京エレクトロン 林暁慧さん
韓国最大手と向き合う
半導体製造装置の日本最大手、東京エレクトロンの林暁慧さん(37)は台湾出身。ウエハーに薄膜を形成する成膜装置の営業を担当する。装置の採用で勝負をかける時に助けてくれる社内人脈づくりに努めてきた。他社製からの切り替えなどで実績を上げた。提案力を身につけて今、最重要顧客の1つである韓国最大手の半導体メーカーを担当する。
東京エレクトロンは成膜装置のほか、膜の一部を削るエッチング装置、生産過程で生じるゴミを洗い流す洗浄装置などを製造・販売する。林さんは2007年の入社以来、成膜装置を扱う部署に所属する。日本、台湾、中国と担当する顧客メーカーの国や地域が変わり、15年から韓国の担当になった。
林さんは量産ラインの設備導入から次世代技術の開発まで、韓国最大手メーカーとの窓口を1人で務める。大きなものだけで現在、10件以上のプロジェクトを抱える。
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「メールや電話でもいいのかもしれないけど、不器用だし、日本語も不安なので」。東京・赤坂の本社に勤める林さんは、山梨県韮崎市や岩手県奥州市の工場に頻繁に足を運ぶ。顧客メーカーの要望を伝えるためだ。
本人は謙遜するが、日本語は上手。会話の際は相手の体調や誕生日、家族への気配りを忘れない。この姿勢が技術陣の共感を呼ぶ。
日本への留学を終えた後、気さくな雰囲気が気に入って東京エレクトロンに入社した。「仕事の引き出しを多く持て」。入社時の教育係だった社員に言われた言葉が心に残っている。顧客の様々な要望に応えられるようにしておくにはどうしたらいいか。「顧客から話があった時に社内の誰にお願いをすれば最も効率よく優れた提案につながるのかを見極めておくことが大事」
こうした考え方を確信に変えた経験がある。12年春、台湾を担当していた時だ。
東京エレクトロンがあまり食い込めていなかったメーカーがあった。林さんは1週間の3分の2は現地に行っていた。顧客との会話を通じて、品質を保ちながら下地にダメージを与えない成膜技術のニーズがあることが分かった。
林さんは他の工程に使っていた成膜装置を応用できる可能性に思い当たった。すぐに提案の機会をくれるようにメーカーに求め、顔見知りになっていた自社の技術者らに「面白いと思うので力を貸して」と協力を求めた。
最初に提案させてもらった時、そのメーカーは既に他社製を採用することを決めていた。林さんの考え方は正しかったはずだが、それまでにはない使い道だった。さらに顧客が求める納入期限まではわずか1年。プロジェクトチームを編成し、市場調査やデータ検証、サポート体制の手配に走った。半年後に評価機を納入した。不安はあった。
だが評価の結果、そのメーカーの工場から他社製の装置は撤去され、東京エレクトロンの成膜装置が取って代わった。社内の技術者らの協力を得た結果の大逆転だった。「多くの人の力を借りて勇気を出して戦えた」
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社内の協力態勢を整えておくことに加え、この経験でもう一つ学んだ。 「顧客の要望を受け止めることは重要だが、単に応じるだけが正解ではない」ことだ。要望を聞くだけでなく、それを上回る装置や利用法を提案する。自社にはそれだけの技術がある。
約束したことは必ず守るが、できない約束はしない。「そこから少しでも『林さんにお願いすれば何らかの形で持ってきてくれる』と思われる関係にしたい」と話す。技術者を味方につけてステップアップしている。
(新田裕一)