東日本大震災から6年 記録映画、相次ぎ公開
土地に残る人に寄り添う
東日本大震災から6年。被災地にとどまる人々に寄り添い、その生き方を見つめたドキュメンタリー映画が相次ぎ公開される。メディアの報道に隠れた、ひそやかな心の機微が映っている。
福島県沿岸部の最北端、新地町。津波の被害は大きかったが、幸いにも多くの漁船が無事だった。「新地町の漁師たち」(11日公開)は、福島第1原発事故で漁場を奪われながらも町にとどまり、再び漁に出る準備を続ける人々の姿を追う。
山田徹監督は2011年5月にボランティアとして同町を訪れ、6月から取材を始めた。当初は「何を撮ればいいかわからなかった」。漁師たちはガレキ除去や魚介類のモニタリングのため時折、海に出るだけ。無為に過ごす人々に「希望を見いだせなかった」。
漁師が生き生き
転機は13年3月に始まったコウナゴの試験操業。「海に出て魚をとる漁師たちは生き生きしていた。目の輝きが違った。漁師は仕事をしたいんだという単純な真実に気づいた」と山田。
ところがほどなく原発の汚染水漏れが公表される。東京電力の地下水バイパス計画の説明会で、漁師の一人が「海、汚されちゃったらどうするんですか。孫たちに誰が責任負うんですか」と猛抗議する。その姿を真正面から撮った。
「漁師は自然と共に生きている。だから土地にとどまっている。金の話にすると、途端に生きている人が見えなくなる」。記録映画作家の羽田澄子に師事した33歳の新人監督はそう語る。漁師たちは途絶えていた祭りを再開し、漁船を新造する。そこに彼らの希望と不安が確かに映る。
小森はるか監督「息の跡」(公開中)は津波に襲われた岩手県陸前高田市の荒涼とした土地の一角で、ぽつんと再開した種苗店の店主に密着する。
プレハブの店舗に手描きの看板。手掘りの井戸。店主の佐藤貞一さんは苗作りや販売の傍ら、津波の体験を、独習した英語や中国語でつづり、自費出版した。
「何が彼にそうさせているのだろうか」と小森。東北に移り住み、震災の記録を続ける27歳の新人監督はそれを知りたかった。津波で失われた地域の記録が外国で見つかることもあるから、と佐藤さんは映画の中で説明する。日本語だとあまりにも悲しみが大きくなるからあえて不得意な英語で書いた、とも。
「理由はたくさんある。映画で伝えたのは一部にすぎない」と小森。「ただ佐藤さんはそうしないと生きていけなかったのだと思う。それだけ失ったものが多かったのではないか」
題名は「人が生きていた痕跡」という意味。「陸前高田の人々はそれを大事にしている」と小森。津波で失われた人や町のように、佐藤さんのプレハブの種苗店も土地のかさ上げのために移転を余儀なくされ、消えていく。店が、井戸が、解体され、息の跡となる。
外国人の視点で
ベルギーのジル・ローラン監督の「残されし大地」(11日公開)は、福島県富岡町と南相馬市に暮らす3組の家族に寄り添う。
避難指示解除準備区域にとどまって動物を保護する松村直登さんと老父。居住制限区域で暮らす半谷さん夫妻。避難指示が出ている自宅への帰還を準備する佐藤さん夫妻。外国人監督は先入観をもたず、それぞれの生き方を受け止める。
佐藤さん夫妻が友人たちを招き、自宅に実ったイチジクを食べながら、震災後の暮らしを語り合うシーンが秀逸だ。草木や虫たちへのまなざし同様、福島で生きる人々の肉声をのびやかに繊細にとらえている。
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2017年3月7日付]
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