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仕事上の区切りである年度末はもうすぐ。「来年度はもっと成果を上げたい」と考える人も多いだろう。そんな場合に役立つのが「自分への質問」だ。自分に質問を投げかけて行動に変化を起こしていく手法で、多くの企業が人材開発に導入しているコーチングの技法に基づいている。

「人は常に自分に質問をしながら生活しているもの」と話すのは「良い質問をする技術」(ダイヤモンド社)の著者で、コーチ・エィ(東京・千代田)のエグゼクティブ・コーチ、粟津恭一郎さんだ。

「明日の会議は何時だったか」「今日はどの服を着よう」など、人は自分に質問して行動することを無意識に繰り返している。例えば「どんな資料を準備すれば顧客の満足が得られるか?」という自問が、入念な資料を用意するという行動につながる。粟津さんは「気が利く人、仕事ができる人の差は、自分への質問力の差であることが多い。行動を変えるには質問を変えなければ」と説明した。

疑問が転機に

ヴィタミンM(横浜市)社長でビジネスコンサルタントの鈴木真理子さんは、「自分への質問が転機につながった」と振り返る。以前、パートタイマーとして採用された企業から「60歳までいてもいい」と言われたとき、「60歳までこの仕事を続けたいか」と疑問を感じた。起業家の女性と知り合ったときは「この人にできて、なぜ自分にはできないのか」と自問した。その積み重ねが、起業につながったと感じている。

自分への質問が行動につながるメカニズムについて、医師で作家の米山公啓さんは「人は会ったことのない人と出会ったり、行ったことのない場所に行ったりすると違う視点が得られて刺激になる。自分への質問はそれに似た効果がある」と説明する。

ただ、人が日ごろ自分にする質問には人それぞれに偏りがある。新たな行動につながる質問はどのように作ればいいのだろう。

粟津さんによると、まず大切なのはビジョン(目標=手に入れたいもの)・バリュー(自分が大切にする価値観)・ボキャブラリー(よく使う言葉)という「3つのV」を重視した質問であること。このため自分にとって重要と思われるキーワードをどんどん書き出すことから始める。自分が手に入れたいもの、大切にしていること、好んで頻繁に使う言葉などだ。

キーワードに、5W1Hの疑問詞(いつ・どこで・だれが・何を・なぜ・どのように)を組み合わせる。

コーチ・エィの女性社員に実践してもらったところ「広げる」「初めてのこと」「直接聞く」「誘われたら行く」など、広報担当の彼女にとって重要なキーワードが並んだ。そこに疑問詞を組み合わせると、「誰に誘われたら一番行きたくなるか」「なぜ直接聞きたいか」といった質問が出来上がった。こうして作った質問には「今後この答えを考えていこう、と思える重要な質問が必ずある」と粟津さん。

粟津さんが担当した製薬会社の営業担当者の場合、それまで気にしていなかった「いつ」という疑問詞に着目した。これが「いつ行けば医師と良いやりとりができるか」との質問を生み、担当者は答えを考えながら出先を回るようになり成績向上につながった。

同僚と話し合う

粟津さんは「疑問詞を使い切っていない人が多い」と話す。最近の若い社員には「だれ」を使わない傾向があり、全て自分でやろうとするという。「誰に聞けばいいか」「誰とすればいいか」といった質問をするだけで、周囲の人間の見え方が変わるはずだ。

同僚や友人と話しながら質問を作ると、多彩な質問が生まれ、発見も多い。また、キーワードと疑問詞をカードにすると、気負わずゲーム感覚で楽しめる。

質問を作ることで改めて明確になった目標は、口に出した方が実現につながりやすい。米山さんは「人には自分の言ったことに従おうとする性質がある。意思と行動がバラバラだと満足できないし、筋が通れば快感を得られるからだ」と話していた。

(ライター ヨダ エリ)

[日本経済新聞夕刊2017年2月20日付]

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