モンティ・パイソンができるまで ジョン・クリーズ著
階級の規範を理解 笑い飛ばす
お笑い界に革命を起こした伝説のグループ《モンティ・パイソン》は、日本でも放映されたテレビ番組「モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス」や数々の映画で爆発的な人気を博した。本書は、そのグループの中心人物ジョン・クリーズの自伝である。(クリーズをよく知らない人は、《シリーウォーク〈バカ歩き〉》でネット検索を。「ハリー・ポッター」で《ほとんど首なしニック》を演じた俳優でもある)
ページをめくるごとに、思わず吹き出してしまうような書き方になっているのは、さすがエンタテイナーだ。たとえば、小学校時代に得意だったのはラテン語と算数だったが、「最悪なのは聖書だった……私にはその意味がさっぱりわからない」として、聖書を引用してこう書いている。「『右の手のすることを左の手に知らせてはならない(マタイによる福音書六章三節)』。はあ?」
この調子で楽しみながら読み進められるのだが、つくづく感じるのは、クリーズの育ちのよさだ。体面を気にする「ロウアー・ミドル(中流の下)」の出だが、パブリックスクールに通ったおかげで「ミドル・ミドル(中流の中)」のふりをすることができるという。このイギリス人の階級意識というのは実に面倒だが、クリーズに言わせると、本物の上流階級はすばらしく礼儀正しいのに、「本心から好きなのは、なにかを追いかけて撃ったり、水から釣り上げて窒息させたりすること」だそうだ。
クリーズは英国紳士として演技をすることが多いが、ここにクリーズの笑いの根っこがあると言えるだろう。つまり、完璧なまでに規範を理解しているからこそ、それを笑い飛ばすことができるのだ。
努力の人でもある。早めにパニックすれば成功するとのことだ。恐怖はエネルギーの源だという。ケンブリッジ大学に入学できたのも、テレビ初出演に成功したのも、この手法によるものだった。そのあたりの逸話もおもしろおかしく書かれている。本の後半ではネタのいくつかも紹介されるので、モンティ・パイソンをあまりよく知らなくても楽しめる。
弁護士の資格がありながらコメディに生き、音痴なのにブロードウェイ・ミュージカルにも出演してしまった人の自伝である。学ぶべきところは大だ。「最後に笑う者が最もよく笑う」というが、これはクリーズのためにある言葉かもしれない。
(英文学者 河合 祥一郎)
[日本経済新聞朝刊2017年2月5日付]
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