大統領を操るバンカーたち(上・下) ノミ・プリンス著
20世紀以降の政治と銀行の関係
カネを支配する集団が国を支配する……。この金言のとおり、米国ではウォール街の大手金融機関はホワイトハウスと癒着して暴利を貪っていると懸念されている。だからこそ、数年前には「ウォール街を占拠せよ」というデモが米国民の共感を呼び、癒着の実態を明らかにする書籍も多数、出版されている。
本書はそうした類(たぐい)の書籍ではない。銀行家と大統領との公私にわたる関わりを基軸として描かれた米国の政治・金融史である。20世紀初めのセオドア・ルーズベルト大統領とJ・P・モルガンとの関係の検証に始まり、オバマ大統領とゴールドマン・サックスとの関係で終わる。
本書では、膨大な公文書が丹念に読み解かれる。ホワイトハウスと有力銀行家との結びつきや、それが米国の国内・外交政策に及ぼした影響を明らかにするためである。そうした試みは成功裏に完了し、次のような知見が導かれる。
すなわち、大統領と銀行家との関係は時代とともに大きく変貌した。かつては緊密であった両者の絆も今では形式的なものと化した。それとともに銀行家からは公共精神や謙虚さが消え、あくなき利益追求の姿勢が目立つ。しかし、それを制止するメカニズムは見当たらない。
実際、1950年代まで、大統領と銀行家の多くは大学時代からの知己であった。銀行家は大統領と緊密に連携する一方で、対外融資などを自由に実施しうる環境の整備を求めた。大統領もそれに応えるべく種々の政策を実施した。そうした流れのなかで、連邦準備制度という中央銀行制度が新たに設けられたほか、米国の超大国としての地位が生み出された。
ケネディ大統領以降、公私にわたる絆に亀裂が入り、漸次拡大した。経済の持続的な成長などに伴い、大統領は銀行家の支持を特に必要としなくなった。金融に関する規制緩和の進展とともに、銀行家も政府の支援を必要とする度合いが低下した。
20世紀末には銀行と証券の分離政策が撤廃され、1世紀前の世界に戻った。銀行家が長年、渇望してきた世界であり、利益追求の姿勢はさらに強まった。そうした動きが最終的にはリーマン・ショックを招いた。事態を抜本的に改善するには銀行家の利益追求を制する措置の立法化が求められるが、実現性は非常に乏しい。
これが著者の見立てである。厳しい見解も多々みられるが、米国の政治と銀行界との関係のありようや歴史的な変遷を理解するうえで格好の書籍である。
(同志社大学教授 鹿野 嘉昭)
[日本経済新聞朝刊2017年1月22日付]
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